「……………」

今、私は女官と対峙している…
少しでも気を抜けばどうなるかなど分かったものではない…
の、だが……

「―――どうぞ、粗茶ですが…」
「あ、どうも…」

ズズー……
ふむ、茶、というのは初めて飲みますが悪いものではありませんね…

「ってぇぇぇええ!?」

飲んじゃいました!?出されたからつい飲んでしましましたよ!?
え、ええと毒でも入っていたらどうしましょうか!?
そもそも粗茶とは言いますが茶というもの自体高級品ですし!?

「…ふふっ、特には何もいれていませんよ?」

慌てふためく様子を見て女官がそう言い、私は一安心した…
いや、よくよく考えてみて信じていいのだろうか?
…といっても、入っていないことを祈るばかりなのだが…

…ええ、気を取り直しましょう。問題なのは女官が上皇を害すものなのかどうか。
それを確かめなければなりません…

「…単刀直入に言いましょう。あなたは何者で、なんの目的で上皇に近づいているのでしょうか…?」
「…さて、何者でしょうね?そして…それを聞いて、貴方はどうしますか?■■」

ぞわり、と寒気がした。部屋の空気ががらりと変わり、女官から強大な力を感じる

「…返答によりますけどね…」

女官からの気に少し押されながらも、術の構えを取る
たとえ勝ち目が低かろうと、好きにさせる気はない
それだけ私は上皇に恩があるのだから…!


「…取り込み中カナー?」


部屋の入り口から声が聞こえた。その声を聞いて私はずっこけてしまう
何故なら…その声の主が上皇だったからである…



「いやー、遊びに来たらなんか真剣に向かい合ってるものだからどうしたものかと思たね!」

そう言いながら茶を飲む上皇

「…ええと、上皇は女官のことは…?」
「んー?知ってる知ってる。妖狐なんでしょ?って言ってもボクは尻尾だのなんだのは見たことないけどね!」

あ、でもランのなら見てるからそれと同じなんじゃないかな?と言いながら寝ているランを撫でている
どうやら上皇は私が知らないことまで知っているようだ…

「というかこの部屋を空けさせたのもボクだったし。今では便利な休憩所として使ってるよ?」
「…道理で最近姿を見ない時が多くなったわけですか…」

それを心配して今回の調査を始めた、というのもあった。しかし実際は息苦しい公の場から抜け出すことが多くなっていただけのようだ

「…今回は私が先走っただけ…?」
「なんかよくわからないけどご苦労さまー」

その言葉を貰えるだけで十分ではあったが…

「あれ、そういえば何故女官は私の名前を知っているのですか?」

ふと、先ほどのやり取りを思い出して疑問に思った。そうすると女官が

「ああ、それならこの人に教えて貰いましたので。中々面白い方が居ると」

と。とどのつまりこちらのことは向こうに筒抜けだったというわけで…

「…尚更徒労という感じがしてきましたね…」
「いや、そんなことはないよ?」

肩を落とす私に上皇がそう言った。はて?何故だろう?

「近々合わせたいと思ってたからねー。まあちょうどいい機会だったというわけサ!」
「…もしかして私のために…?」
「ん?別にそういうわけでもないかな?こうやって気楽に喋れる集まりが出来るようにってだけだね」
「「貴方普段からへらへら話していますよね?」」

つい女官と口を合わせて言ってしまった。
それを聞いて上皇はあっはっはっはとからから笑う。
やれやれと私と女官が首を振って。
そんな中、ランは幸せそうに寝ていて



そんな、そんな集まりがあった。そんな時間があった。それはその後も時々集まって、いろいろな話をした

女官が気に入られていたのは上皇に対して遠慮なく話が出来て、多くのことを知っていたからということ。
もともと女官とランは大陸の方に居て、そちらの方で問題を起こした妖狐が居たので巻き込まれないように日の本に来た事。
ランは幼く見えるが、これは妖狐基準なので見た目よりかは長生きしていること
だけど割と甘えん坊でまだ精神的には幼い、ということなど

たくさん、話した。時には真剣に、時には面白可笑しく。

碁を打ったりもした。私は自分が上手いほうだと実感していたが、女官も中々上手で、よい勝負をした。
時々不思議そうに見ていたランに、碁を教えてみたりもした。ランは教えたことをよく覚え、ぐんぐんと上手になった。
時々陰陽術を使っていたら教えてほしいとランに頼まれたので、式神や簡単な術を教えてみたりもした。

…楽しかった。四人で過ごす日々は、かけがえのないものだった。
いつまでも、こんな日々が続くといいな、と思った。
いつまでもこんな日々が続くように、と思った
大切な日々がいつまでも続くと…そう、思っていた


それが、私の間違いだった


私は、こんな大切な日々がいつまでも続くと思っていた 其の壱 →其の弐→其の参其の肆

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます