いつからだろうか?この違和感に気付いたのは
彼女はただの女性のはずだ
はずなのだ…が、何かがおかしい…何かを隠している…?
気付いているのは陰陽師の中でも私だけのようだ…

世間一般ではこのような時は誰かに相談するものなのだろう
が、残念なことに私にはそのような相手はいなかった
…単純に、どうしても人付き合いが苦手だからである

いや、一人はいる…が、内容が内容だけに相談するわけにもいかない…
なぜなら、相談したい内容というのは上皇に寵愛されている女官についてのことで、
相談したい相手というのが上皇だからである…

なので私はこうして一人で調査をしている訳だ
こういうことがある毎に自分の社交力…会話力?の無さが悲しく思えてくる…
将来、改善されることはあるのだろうか?ないのだろうなぁ…
陰陽師の中で孤立している私を上皇が良く接して頂いているのはとても幸運なことだと実感する…
その上皇に恩を返すためにも、この女官の正体を見極めなければ…

そう思って色々と調べているうちに、妖術によって隠蔽処理のされた場所を発見した
何を隠しているのだろうか…自慢というわけではないが、陰陽師の中でも一番の実力だと
言える私がやっと発見するほどだったが…あの女官はどこまでの実力者なのだろうか?

…嗚呼、今思えばむしろ私が無能であれば…
皆と同じであれば私は孤立していなかったのかもしれないが…
そのようなことを考えても仕方がないか…

そう思いながら私はいざ、勇気を振り絞りその場所へ入ることとした
そんな私を待ち構えていたのは…

「かあさま!おかえりなさいなのじゃ!……うむ??」

とても幼い少女だった…いや、訂正しよう、大きな耳の生えた少女だ、
いやこれでも間違っているな、大きな尻尾だってある
ええと、つまりなんだ?確か以前書物で読んだような…

…ああそうだ、確か妖狐というものであったなぁ…
その時の私はただ固まることしかできないのであった…



「あ!おぬしにんげんというやつじゃろ!?」
そう言うと、少女は急いで隣の部屋へ隠れて…
「………」
じーっとこちらを見ているのであった…

うん、よし、落ち着こう
ひとまずここに居たのは推定妖狐の少女で、おそらくは女官がこの子を隠していたわけだ
妖狐…化けることが出来る妖の一種であるが…私は出会うのが初めてだ…
妖、と聞けば悪しきもの、と世間では噂されやすいが、妖狐は悪しきものとは言い難い
いや、妖狐でも悪しきものはいるし、人を化かすこともあるのだが…
全てがそういうわけでもなく、窮地を救えば恩返しをするものもいるという

そもそも、だ。私の祖先は妖狐とは馴染み深いと言われている
祖先様の母親が妖狐だったそうだ…本当であるかはわからないが

となれば、ひとまずは敵視せずに話を聞くとしよう
では、話を…おや?先ほどまで襖に隠れてこちらを覗いていた少女はどこへ…
……ああ、なるほど。背丈の問題からこんなに近くに居ると視界に入らないのだなぁ……

「って近っ!?」
「ひゃっ!?」

つい私は大声を上げてしまい、少女はそれに驚きまた襖の方へ隠れてしまった
……いや、大声を上げてしまった私も悪いがこの少女は警戒心がなさすぎるのではないか…?
またじーっとこちらを覗いている少女に対して、私はそう思ってしまった…



「ええと、そうだ、自己紹介をしましょう。私はこの都で陰陽師をしている者です」
「わしはらんじゃ!」

うーん、元気があるのは何よりではあるけれども…
またじっとこちらが待っていると少女はまたこちらに寄ってきて、私を眺め始めたので
いい機会だとひとまず自己紹介をしたのはいいのだが…

「あの、ちょっと、裾、裾引っ張らないでください…いや袖も駄目ですって…」

少々、いやかなり元気が良すぎませんか?ああ、烏帽子が、烏帽子が!

「〜〜♪」

しかもすごく上機嫌なのだから止められない…尻尾が!尻尾が顔に!くすぐったい!
私が悪い大人だったのならこの子は一体どうするつもりなのだろうか!?
…それに、さすがに鼻がむずむずとして来たので止めることとした…

「や、やめなさい!」
「えー?つまらないのう…」

そう言ってしょんぼりと私から降りる少女…素直でいい子なのだろうか、少し申し訳なく…
いや、これは錯覚だ、そもそもこのようにされていたのがおかしいのではないのか?

「ええと、ランよ。あなたはここで何を?」
「うむ!かあさまをまっているのじゃ!」

ふむ…ランはあの女官との関係者なのだろう…
この母様、というのが女官とは限らないがここに匿っているというのは確かだろう

つまりおそらくは本陣に来てしまったということなのだろうが…
今回は軽い調査のつもりでいたため準備も何もしていない
下手をすれば女官と遭遇、そのまま争うにでもなれば不利なのは私だろう
ここは撤退、そうと決まれば早々にここを出なければ…

「ジー……」

凄く見てる!すごく見てますよあの子!

「え、ええと、どうかしましたか…?」
「……帰るのかのう?」
「ま、まあそうしようかと…」
「……そうか……」

そう言ってランはまたしょんぼりとするのであった
その姿は…とても寂しそうで、悲しそうで…

…きっとこの子は人と触れるのが初めてなのだろう
いや、人とだけではなく、他者と触れるのも初めてなのかもしれない
何故なら、ランは私を見るときも、私と話すときも、私と触れるときも…
とても新鮮そうに、楽しそうにしていたのだから

「…そうですね、そう思っていましたがもう少しここに居ようと思います」
「……!ほんとうか!?」

暗く、俯いていたランは私の言葉を聞き、ぱぁっと笑顔を見せてくれた

ここに留まることは危険なことかもしれない…
けれども。それでもこの子をこうやって笑顔に出来るなら、
少しくらいは危険を冒してもいい…そう思えるような、明るい笑顔だった

「じゃあ、少しお話をしましょうか。私がこの前に解決したことなのですが、奇妙な出来事でして…」
「ふむふむ…!」



「…ということもあったんだよ…って、ラン寝てます…?」
「……すー…すー……」

どうやら、話の途中で寝てしまっていたようだ
私の話は退屈ではなかっただろうか…?
そう心配もしたが、とても楽しそうな寝顔のランを見て、その心配は無かったのだと思った

「よっと…」

床で寝ているランをこちらに寄せ、自分の膝の上に頭を置かせる
ただ床で寝るよりもこちらの方が寝やすいだろうと判断したからだ

「……すー…すー…むにゃむにゃ……」

ランは今、どんな夢を見ているのだろうか?
安らかな寝顔であるから、きっと楽しい夢なのだろう…
そんなランを見て…

「…可愛い、ですね…」

私はそう呟いたのであった



「ええ、私もそう思いますよ?」



…背後から、そう声が聞こえた
分かっていたことだろう、わかっていてここに留まったのだ
そう、覚悟はできている…私は、ゆっくりと振り向いて…


そこには、全てのきっかけの女官がいたのであった…


私は、こんな大切な日々がいつまでも続くと思っていた 其の壱→其の弐其の参其の肆

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