”シュテルとシュルクは遭難した島で貴方たちと生活するようです”
の異伝。物語として編纂され、短く七巻に纏められた物語。
そのあらすじ。



第一編:方舟
表紙絵:海をゆくAHIRU
 所謂初期組、方舟に乗って神賽島に来た人々の”始まりの物語”
或るものは屋敷を首になり、途方に暮れながら船に乗った。
或るものは魔獣に全てを奪われ、疵に苛まれながらも乗船した。
或るものは滅ぼしに来る創造神を迎え撃つため、牙を研ぎながら波に揺られる事を選んだ。
或るものは悪夢に苛まれる中で、方舟が生き残れるかを賭けとした。
或るものは・・・
 ・・・彼ら彼女らは如何にして方舟に乗り、方舟で過ごし、嵐によって島へと辿り着いたのか。
短編集のような形式であり、それ自体娯楽読み物として楽しめるよう描かれては居るが、
7編の一つとしての役割は、”当時の状況”を彼らの方舟に乗る顛末を通して伝えることにある。
 事が終わった後に生まれた読者にも、後の巻をよく理解できるようにと。


第二編:神賽島
表紙絵:大きな焚き火を囲み、泳いだ体を渇かしつつも肉や魚を焼き、楽しむ人々。
 始まった島でのサバイバル生活。
方舟を探り、砂浜の漂流物を調べ、獣を狩り、魚を釣る。
苦心してパンを焼き、鶉の卵でプリンを焼き、水場を探って水精霊に出会う。
その前半では、彼らがいかにして生活の拠点を作り上げていったか。
大変ながらも楽しげな日々が情緒豊かに描かれている。
 対して後半では”神兵”の襲来と魔獣使いギルドバリアンとの遭遇の顛末によって、
之は終末を過ごす後日譚の物語ではなく、終末に挑む物語であることが示される。


第三編:探索
表紙絵:神賽島の地図
 別の方舟・・・ワシズの方舟からの生き残り等とも合流し、
余裕ができた物資や人出で建物も充実し、
時には覗き騒動が起こったりと、拠点は安定を見せていく。
 そんな中彼らが挑んで行ったのは島の探索。
密林での竜種”イビルジョー”による苦い敗戦と復讐戦、
海底遺跡レムリアの発見とそこで見つけた”創造神の日記”。
 島の自然が持つ暴威と、島に秘められた多くの未知。
それが一つ一つと明らかになっていく過程が描かれている。


第四編:神様会合
表紙絵:神格が囲む円卓
 探索の中、彼らは神格達と出会って行く。
或るものとは偶然に探索の中で、
或るものとは精霊からの紹介で、
・・・そして、彼らの一人、亡国の姫との因縁により厄神と。
 前半ではそれら神々との出会いが物語られ、
 中盤では新たな神兵達の襲来と戦いと、それによる縁ある死者達の復活が綴られ
 終盤において開催に至った”神様会議”が描かれる。
七巻の中でも、最も重厚な一巻。


第五編:過去
表紙絵:墓標の様に突き立てられた武器群
 神々との話や探索を通じて明らかとなった真なる敵手、ビャクラン。
彼に対抗すべく未知は暴かれ、装備は整い、力は蓄えられてゆく。
・・・そしてとうとう彼らのリーダー、シュルクが重い口を開く日が来た。
 それは彼/彼女が今まで秘めていた事。知る者は僅かばかりの、失われた過去の物語。


第六編:決戦
表紙絵:島のメンバーの集合絵。
 決戦の時と戦の終結。
 バベルの塔による神界突入から創造神・マドカの制圧と洗脳からの開放、
ビャクランとの決戦が一気呵成に、息をつく暇もない調子で描かれている。
特に最終決戦には多くの項数が割かれており、
各々の口上や啖呵、戦いの描写は圧巻の一言。


第七編:その後
表紙絵:無地
 物語の終わり、後日譚の一巻。
騒動が終わった事を祝う大宴会、
一段落し、落ち着いた日々を過ごす人々の情景、
希望教の誕生、
・・・七編の物語の最後は、めでたしめでたし。




「・・・あらすじはこんな所でしょうか」
 ふぅ、と一息吐くクロマツ。
今回の一件が終わるや、アンデルセンは”作家としての一番乗りは俺だ!”と一気呵成にこの物語を書ききった。
 余すこと無く全てを書ききった、”歴史学者の為の挑戦状”でもあるあの大作とは異なる、
 気軽に、子供でも読める”物語”としての7巻。
 時を経ても伝わる様に、ではなく、今の者達が最も楽しめる様な形式で、最も読みやすいような言葉遣いで綴られた本。
 ・・・此の島の、顛末に知らない部分が有る人々が、そして新たに生まれる子孫の世代が、読み楽しむための物語。

「ご苦労だったなクロマツ。
・・・ああ、之で問題ない。
次は今書き上がった作品のチェックを頼む。
代わりに・・・そうだな、チェックをしている間にお前が執筆している話、
”冒険少女と旅人少年”だったか?軽く添削しておいてやろう。」
 何時に無く上機嫌な調子のアンデルセン。
 未だインクも乾ききっていない生原稿を渡すと、クロマツの草稿に容赦なく赤をつけていく。

「アンデルセンさんが添削してくださるならありがたいですね。
シンシアさんとの約束ですし、拙いなりに良い物に仕上げたいですから。
・・・しかし、相変わらずノッている時の筆は速いですね、アンデルセン。
さて、之は恋物語ですか・・・ちょっと待って下さい・・・これは、もしや?」
 ゆるりと微笑みながら原稿を読み始めたクロマツだが、
読み進むにつれ、”それが誰をモデルにした物か”を理解するにつれ、表情が変わっていく。
 普段の表情・・・笑顔から、せいぜいが苦笑への変化ではなく、
ひきつった様な笑みへと。

「そいつは恋愛物だ。それも、ハッピーエンドのな。
光栄に思って良いぞ?クロマツ。」
 顔を上げたクロマツの目に写ったのは、
 にやにやと飛び切りの悪戯が成功した事を喜ぶ、笑顔のアンデルセン。

「・・・気恥ずかしいやら、嬉しいやら。
ええ、貴方なりの祝いでもあるというのは分かりますが。
・・・一寸待って下さい、ハッピーエンド?」
 真逆、自分をネタにされるとは。
そう顔を少しばかりし赤くし、恥ずかしさに呻いていたクロマツであったが、
それどころでは無い事に気が付き、聞き返す。

「ああ。あの別れをお前は、お前らは悲劇なんぞとは言わんのだろう?
だが、俺には思う所が有ったという事だ。
・・・其れが覆ったことに、”ハッピーエンド”を描いてやりたくなるくらいにはな。」
 ふん、と鼻を鳴らしながら告げるアンデルセン。
 クロマツがミントに引っ張り回されていた一年間と、
 ミントがクロマツへのラブレターを残してその寿命を全うした別れの日。
 当事者の二人は、それを当然の事として受け入れていた。”そういう物なのだ”と。
 ・・・だがそれは、隣人として、友人として見ていたアンデルセンには良しと出来る様な事ではなかった。
 以降彼の描く恋物語が、悲劇のみとなる程に。

「・・・ありがとうございます、アンデルセン。
此の物語の題は?」
 代えがない宝石に触れるように丁寧な手つきで、しかし手を止めること無くクロマツはその原稿を読み進めていく。
 題無く、一行目から本文が始まっていた原稿を。
 パラリパラリと、紙を捲る音を響かせながら。

「お前が決めろ、クロマツ。
・・・特別だ。」

「・・・」
そして最後のページを捲り終え、クロマツは暫し瞑目する。
余韻を噛み締める様に、名付けるべき題に悩む様に。
そして・・・
「ではアンデルセン。この物語の題は・・・」

 おわり

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