「な、何だこいつ…化物か!?」
「…ふむ、無礼ではないか?」

彼女に刀を構えた山賊が…吹っ飛んだ
その場の誰もが彼女の動きを追えず、何が起こったのかを理解するのに時間がかかるほどにその動きは速かった
吹き飛ばされた山賊は木に衝突し、目を回している…

「く、くそっ!逃げるぞ!」
「お前、薬はどうすんだよ!?」
「仕方ねえだろ!コイツ運ぶぞ!」

山賊達は気を失った一人を抱え、さっさと逃げてゆく…
一件落着…とはいかないだろう。新たに狐の彼女が現れたのだから…

「……ふむ……」
「貴方、助けてくれてありがとね!」
「ちょ、ちょっと姫様!?」

狐の彼女へ姫様が近寄っていた。警戒心とかはないのか!?

「…別にお主を助けたわけではあらん。お主もあのように吹き飛ばされたいか?」
「んー、それは嫌ね!でもお礼は言わないと駄目と思ってね!」

ありがとありがと!と姫様は彼女の手を握って感謝の意を表す
…心なしか彼女がびくっと震えたように見えたのは気のせいだっただのだろうか?

「……ふん……」
「…あの、なにか…?」

えっと、なぜ俺は彼女にじっと見られているんだろう?

「…気のせいか…」
「……?」

そういうと彼女は姫様と話し始め、俺は蚊帳の外といった感じになってしまった


これが俺達と妖狐の彼女…ランとの出会いだった
この出会いが俺の運命を変えたなんてその時の俺は思ってもいなかった…


いや、もしかしたら…変わってなんて、いなかったのかもしれない



それから俺や姫様の生活は変わった

姫様はよくランの元へ遊びに行くようになった
どうやら仲良くやっているみたいだ…彼女は認めたがらないようだが
それでもランは時折楽しそうに笑みを浮かべている…


俺はというと、ランを師匠とし、体術やらなにやら教わらせてもらっている
なんだか一部の術?というものは何故だか全く素質がないと言われたが、
他の事はいくらかは素質があるそうだ
…次はちゃんと守れるように、それだけの実力が付けられるように…


…それと…あの山賊三人だが、よくランの元へ油揚げを渡しに来ているらしい
あの後、何故か薬草がどっさりと寝床に置かれていたらしい
というか妹が病気のくだりは本当だったのか…
どうやら、ランが薬草を置いて行ったようなのだが…本人は否定している
しかし黄金色の髪の毛が付近にあったことからは、おそらくはランが置いて行ったのだろうとのことだ
あんな事があった後だが、姫様も彼ら三人とは仲良くしているらしい
どうやら姫様は三人を雇ったようで…それでいいのか姫様…?
かくいう俺も、時々ランの元で修行をする彼らとは仕事仲間、弟子仲間になり、仲良くはしている…
流石に姫様ほど仲良く出来ているわけではない、が


そう、日常は変わった
姫様は変なところへ行くことは少なくなったし、俺の負担も減ったと思う
その分修行の時間は増えたが、それだけ強くなれていることを実感する
それに山賊…元山賊三人に俺が担当していた、姫様係のようなものの負担を
押し付け…代わりに負担してもらっていることもある

日々はそう変わった
以前が悪いわけではなかったが、昔よりは良いように
出来なかったことが出来るように、したかったことが出来るように
師匠ができ、仲間も増え、姫様も以前よりも楽しそうになった

そうして毎日を姫様と、彼ら三人と…ランと過ごした
ランと過ごす日々は満ち足りていて、楽しいと、幸せだと思えるものだった
けれど、ランは時折寂しそうな目を…何かに怯えるような目をしていた
俺はそれが嫌で、嫌で嫌で堪らなかった

きっと俺は…ランの事が好き、なのだろう

でも、俺は人で、ランは妖狐で

ランがどう思うかなんて、俺にはわからなくて

この気持ちは、どう伝えようかと…どうすればいいかはわからなかった


そんな俺の想いをよそに…時は流れる

…変わっていたのは俺達だけじゃなかった
俺達の知るところ、知らないところ。そのすべては変わっていた


そしてこれからも


俺は、この大切な人たちを守りたいと思っていた 其の伍→其の陸→其の漆其の捌

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます