「っ、はっ、はっ」

こうして姫様を連れて走るのは何年振りだろうか

この数年で世は大きく変わった
小国から大国に変わり、周囲を滅ぼす国が出来るほどに

多くの国はそれに飲まれ、消えてゆく
…この国も例外なく

俺達の国は亡国となったのだ

そうして亡国の姫となった姫様は、今こうして追われている
いつの日か残党をまとめ上げ、立ち上がるかもしれないからだ

何度か追っ手を振り払い、遠くまできたものだ
あと少しで他国へ入り、連中もそう手出しはできなくなるだろう
そうすればまた平穏に過ごせるはずだ…以前のようには無理でも、平穏に
先行して他国へ向かった三人にも会える。そして何よりも…ランにだって

「っ!」

刹那、茂みから刃が飛来する
俺は刀でそれを斬り払うが、続いて茂みから黒装束の格好をした者が切り掛かかる
防戦一方、姫様を守りながら相手からの斬撃をいなす
焦らず、一つ一つを冷静に対処し…相手の大振りの隙を突き、蹴りを入れ距離を取る

奇襲を受ける形になったが、一先ずは凌いだ
相手の格好は初めて見るが…これが噂に聞く忍者というものなのだろう、これまでの追手とは格が違う
しかしこれなら対処できる。相手に出来る。

「…行けっ!」

相手に斬り掛かり、抑え込んでいる間に姫様に逃げてもらう…
姫様を守りながら戦えるほどの相手ではない…それに、俺が負けても姫様には生きてもらえるように


結果からいえばそれは間違いだった
無理にでも姫様を守りながら戦うべきだった
何故なら…相手は一人とは限らないのだから

後ろから二人目に斬られ…倒れながら、俺は三人目が姫様を刀で刺したのを見て…

その後、薄れゆく意識の中で最後に見たのは…姫様を抱きかかえるランの姿だった



「…ここ…は…?」

気が付くと俺は何処か…暗い、洞窟の中で寝ていた

「っ……痛ってぇ……」

背中を斬られた痛みが寝ぼけていた俺の意識をはっきりさせる
…つまり、あの出来事は夢でもなく…

「お?気が付いたか」

突然、声がした
声の方へ向くとそこには見知らぬ男が立っていたのであった


男の話を聞くに、私は黒装束の死体の近くに倒れていたらしい

「しかしお前も災難だな。あいつらと一緒にアレに襲われたんだろ?」
「……アレとは…?」
「そりゃお前、あの山のてっぺんに居る奴だよ。なんかおっかない雰囲気出してるし」

…確かに、薄らとぞわりとする気が流れ込んでいる
その気は彼女の気で、しかしまるで彼女の気ではないかのように禍々しくて
…恨みや憎しみ…そういった気なのだと、彼女自身から教わったものだった

「……」
「…まあ俺はメシでも採ってくるから安静にしてろよー」

そういって彼はこの洞窟を離れた
…もしかしたら気を使わせたのかもしれない…

「……嗚呼……」

禍々しい気は一向に弱まる気配をみせず、むしろ段々と強まるばかりだった
まるで誰かを呼ぶように、まるで誰かを寄せるためかのように
…まるで誰かに殺して欲しいかのように、まるで死のうとしているかのように



“私”は、知っている

止めなければ

繰り返してはいけない

たとえ…


俺は、この大切な人たちを守りたいと思っていた 其の伍其の陸→其の漆→其の捌

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます