――夢を見ていた

私は、陽気な人、きれいな人、そして…狐の耳と尻尾の生えている子供。
その三人に囲まれていた。不思議な光景だった。

なぜだろう、とても懐かしく思った。とても愛おしく思った。
この夢がいつまでも、いつまでも続けばいいな、と思うほどに
夢が覚めないでほしい、と思うほどに

けれども

私はそこに居てはいけない気がした
居る資格がないように思えた

誰なのだろう、君たちは…私は、知っているはずなのに


…私?私とは…誰だ?



「……頭痛ぇ……」

…なんだったんだろう、あの夢は…
まるで俺じゃない、誰かの夢のような…

「……?」

なんでだろう…なんで、俺は泣いているんだろう?
なんで、俺はこんなにも悲しいのだろう…



「……ふう……」

川で顔を洗い、一息つく
そのころにはさっきの夢なんてどんな夢かも覚えていなくて、
何故泣いてしまったのかもわからなかった

「…まあ、いいか…」
「……あら?■■■■じゃない?」

後ろから、俺を呼ぶ声が聞こえた。
振り返れば、一見村人かのような服を着た女がそこにいた
服だけを見れば、彼女は平民に見えるだろう、が…

「…また抜け出してきたんですか?姫様」
「人聞きが悪いわねぇ、散歩よ散歩」

この人はこの国の姫ということに自覚はあるのだろうか…
これでもこの人はこの国を治める国主の娘…なのだが…

「…今日はどこへ?」
「“あの”森に行こうと思うわ!」

そういって元気良く答える。
相変わらず、お転婆であるものだ…

「…はぁ、お供しますよ」
「あら、ありがとね!」

とか言いながら、つれて行く気満々だろうに…
それに、姫様を一人で行かさせる訳にはいかない。
むしろそちらの方が城の方たちに怒られてしまう

「しかし、あの森ですよね?昔から入るな、と言い伝えられている…大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫!ヘーキヘーキ!!

それを聞いて本当に大丈夫だったのはどれだけあっただろうか?
俺が覚えている分には数えられるほどしか思い出せない…



「やっぱりこうなるんじゃないかぁぁ!!」

森の中、姫を抱え、叫び走る
昔はもっと世の中は平和だったらしい、が…

「待ちやがれぇ!」
「くっそぉぉ!!やっぱりこうなるのかぁぁ!!!」

今はこの通り山賊も多く、荒れ果てている…
俺に山賊を追い払えるだけの力があれば苦労はしないのだが、
三人を追い払えるだけの実力を俺は持ち合わせていない
なのでこうして逃げ回っているわけだが…

「ちょっとー!もう少し丁寧に運びなさいよー!」

呑気過ぎないかこの姫様は!?

「そんなこと言われましてもっとおぉ!?」

散々逃げ回っていたが…どうやらここまでのようだ

「崖…か…」

こうして崖っぷちまで追い詰められてしまったわけだ
正面を山賊三人に囲まれ、逃げ道を失ってしまった…

「へっへっへ…病気の妹がいるんだ、おとなしく捕まってもらおうか…」
「大人しくしてもらえれば何もしねえからよぉ…」
「人質になってもらうだけだぜ…」

「…そういう訳にはいかねえなぁ…」

捕まったところでどんな目に遭うかなんてわからない
奴らが本当の事を言っているとも限らない
俺はともかく、どうにかして姫を逃がさなければ…

そう思って、腰の刀に手をかけたところで…風が、空気が…雰囲気が変わる

この場の支配者が俺たちでもなく、山賊でもなく…彼女がこの場を支配した

「――少し懐かしい気を感じて来てみれば…騒がしいのう?人間よ」


そこには黄金色の……狐が、立っていた


俺は、この大切な人たちを守りたいと思っていた 其の伍→其の陸其の漆其の捌

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