「…ようやく来たか…のう?■■■■」
「……」

溢れんばかりの悪しき気を放ちながら、彼女は話す

「あと少しでも遅ければ人里にでも下りて暴れようかと思っていたが…」
「…ああ、師匠…ここなら誰の邪魔も入らない…誰も巻き込まない」
「…そんな事、どうでもよかろう?」

彼女の尻尾が、髪が、全身が揺らめき…姿を変えてゆく
人の何倍もの大きさへ…大狐へ、人でないソレへ変わってゆく

「では…始めようかのう。殺して見せよ、儂を、儂という悪狐を」
「…始めよう、師匠。俺と、師匠の…初めてで最後の、戦いを。…そして、止めて見せるさ」

命を燃やそう、魂を燃やそう。ランが死ぬのは嫌だから…
償いにも何にもならないとしても、ランの心を守れなかったのだから…
たとえ、この身が燃え尽きたとしても…ランに生きていたいと思うのだから
…その為に、何としてでも彼女を止めて見せよう


だから、俺は…すべてを燃やそう

この想いだって、全てを



「――は、はは、ははははっ!なあ、やれば出来るじゃないか…」
「……」

――何をしていたんだっけ?

ああ、そうだ、俺は彼女と戦って

「ああ、しかし人に負けるというのは宿命なのだろうな…」

互いにボロボロになりながらも、腕が折れようとも、得物が折れようとも戦って

「…少しくらい話してもよいだろう、薄情者め…」

何とか、彼女を倒したんだった

「しかし、弟子に殺されるというのは幸せなのかもしれんな…」

殺す?なんで?俺が?そんな事、なんでしなくちゃならない?

「…おい、何をする気だ?…やめろ!」

呪術だってランに習ったんだ

「やめろ!そんな事、儂は望んでいない!」

…もう“俺”が残るかなんてわからないけど、俺はランに生きて欲しいから

最後に残った思いまでをも燃やし尽そう


「…さよなら、ラン」



「…ハッ、どうやら今宵が山場のようじゃな」

…ここは?どこかの一室で、俺は寝ているようだった
あれからどんなに時間が経って、何があったのかは分からないが…
身体が、動かない。ランの方を向くのも一苦労だった

「…あれから五年、よくもそれ程になるまで動き回ったものじゃのう?なあ。“頭領”?」
「儂を縛り、多くの忍びを殺し、戦の孤児を拾い…儂にはお前が何がしたかったのか、まったく分からんよ」

首元に首輪を付けながら、彼女は話す。見慣れない首輪を、つけて

「おかげで儂は死にぞこなったがのう…お前はこうして死ぬのだろうがな」
「…ああ、後はあの三人がまとめるそうじゃな。あれも儂の弟子故、この里は維持できるじゃろう」

頭領、里…分からない、おそらくはきっと俺がしてきたことなのだろう…

「…また儂は置いて行かれるのじゃな…いつもの事ではあるが…」

けれどランは、しかし、と付け加えて
悲しそうな目をしながらも、それでも、と付け加えて

「――見届けられるのは、幸せではあるのじゃろうなぁ…」

とても辛くもあるのじゃがな、と最後に付け加えて

「――では、な、■■■■…さよならだ」

そう言って、ランは部屋を出ていく


…俺は見送るだけだ。ランの後姿を、寂しそうな後姿を、また

“また”?また……あ、ああ、そうだ、また、まただ!
俺は…私は!また…また、ランを悲しませたというのか…

もっと、もっとうまく、みんな幸せに出来たはずだ!それなのに…

けれども、俺達は知っている…ここが、終わりなんだ、と
横になりながら、そんなことを考えていたように
魂を燃べ、無理を重ねていたこの体が動かなかったように

俺は、間違えた。間違えばかりだった。ランを悲しませるばかりだった

ランだけじゃない。姫様だって、きっと悲しんだ

そうして…また、後悔をした…



――夢を見ていた

その人だって、後悔をしていた。彼女の心を、守れなかったから
自分の勝手な願いから、彼女を苦しませてしまったから。置き去ってしまったから
彼女を、好きだと思っていたはずなのに

…次があれば、もっと、もっと共に在れる人になりたいと
もう、置き去りにはしたくはないのだと
いつまでも隣で、一緒に居たいのだと

人のようでなくてもいいのだと

もう一度、彼女の隣で居られるのならそれでいいのだと


ただただ、笑顔で、笑っていてほしいのだと


そんな、夢を見た

僕は、そんな夢を見ていたんだ


俺は、この大切な人たちを守りたいと思っていた 其の伍其の陸其の漆→其の捌

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