「――く、くくく…その恰好、まさかやり遂げるとは…いやはや、生きてみるものじゃのう」

頭領になるのだと。最短で、頭領になって見せるのだと。
それを楽しみにしていて欲しいのだと、童は言った

「さて、約束であったな。と言っても童は今代の頭領となったのだから、ただ命令すればよいがのう」
「儂をどうするのかは…そう、お主次第じゃ」

ならば、その時は儂を好きにするがよい、と焚き付けてもみた。もしかしたならば、と期待を込めて
本当に成って見せたことは驚いたが…何もせず、ただ儂の首輪を外した事、それに一番驚いた

「…何を考えている?これで儂は自由なのだぞ?」
「だって、約束でしょ?ここから連れ出すって、そういう約束だよ」

覚えていた。生まれてから、一度も全ての約束を忘れたことなどなかった
それが果たされなかった約束であろうとも、果たされぬだろう約束であっても
全て、残らず。無駄だと思っても、ただ、希望をもって

「…律儀にもまあ、そんなことを覚えていたものじゃのう…」
「それと命令じゃなくてお願いなんだけどさ!これからの僕を、隣で見ていて欲しいなって。」

そう、言った。化物であり、人とは違う儂に対して

儂を遠ざけた、他の人々とは違うように

儂と共に在ろうと、選んだのだ

…ああ、このような人も、いたのだったな…

「この影を変えていくところを、見ていて欲しいなって」

そう、言ったところであやつは倒れた
…よく見ると傷だらけで、大きく負傷しているところはなかったが、
よくこれまで立っていられたものだと思った

世話が掛かる、と思いながらも治療し…ふと、この小屋にはまともな寝具が無いことに気付いた

そうしたものか、昔はどうしていただろうか…と思ったところで、
そうだ、膝枕というものがあったな、と思い返した

よく、母様や恩師にしてもらったものだ。倒れた弟子にした時もあったな。ああ、懐かしいものだ…

そう思い、あやつを膝で寝かしていた儂は…寂しさなど、とうに忘れていて穏やかな気持ちであったのだ



「…こんなものか」

しかし、長々と書いたものである。そう思いながらも、書いた書物を仕舞う

さて、もう良い時間であるから、顔を出しに行くかと思っていたところ…
最近また少し忙しかったからか、床で寝ているあやつを見つけた

こんなところで寝ることもあらんだろう…そう思い、せめて枕をと探したが見つからなかった

…まあ、たまにはよいかとあやつの頭を膝に乗せる。
思い出に耽ていたからであろうか?このようにまた膝枕をしようと思ったのは

…しかし、成長したものである。それもそのはず、今や26となるのだから

…気持ちよさそうに寝ているものだ。よしよし…

そう思って頭を撫でていると、あやつはパチリと目を覚ました

「あれ、何で膝枕に???」
「何、少し昔を思い出してのう…こうしていた時もあったな、と」
「ほ、ほらラン、僕もうそういう歳じゃないかなって!」

急いで立ち上がる。まあ確かにそんな歳でもあらんか?と思いながらも

「別にそう嫌がらんでもよいのじゃがのう?」

とからかう。こやつは歳を食ってもあまり変わらんしな、と思いながら

「…いやまあ、嫌なわけじゃないけどさ!これから決戦みたいな雰囲気なのに、」
「緊張感がないのもどうなのかなって!」
「はて、お主が緊張感なぞ持っていた時なんてあったかのう?」
「…それもそうだったね」

儂は化物で、こやつは人で

「ま、まあそういう時にキリっとしてるのが頭領らしいかなって!」
「まあそうかもしれぬが…お前らしくはあらんのう?」
「…それもそうだね!」

また、儂だけが残り、人は過ぎ去ってしまうのだろうと
儂は一人、残されるのだろうとわかってはいるが

「…まあ僕はいつも通りでいっか!」
「うむ、それがよい。お主はお主じゃからのう」

こうして、こやつと一緒に居ることが嬉しく…いつまでも、一緒に居たいと思うのだ

「さて、じゃあ僕もそろそろ出てくるかな」
「…いってらっしゃい、ミナト」
「……ん?あれ?今名前呼んだ?」
「さあ、どうだかのう?」
「……?」

そんな、儂の日常。これまでも、これからも続く儂の日常

永く永く続く…寂しがり屋の、儂の日常なのだ


僕は、僕が決めた通りに生きる 其の外壱→其の外弐
妖狐の記憶 And future days

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