…これを書かなくなって暫くが経つ。何せこの十年程の月日はあやつに振り回されていて、
とても書く暇もなかったし…書こうと思うほど暇でもなかった

けれでも、ここに書き記そう。儂の転機となった、あやつとの出会いや、それまでのことを

ここに共に歩んだ道を書き記そう。隣に立ち、見てきたことを



影が出来てから数世代は儂は比較的自由であった…自由と言っても、親しいものもおらず、
親しくなろうとも思わず、ただ時折死にたい、と思いながらも…
首輪の制約により、死なぬことを優先され、自由と思えることは無かった

その中で、少しは親しくしたものもいたが…人は脆く儚く、儂を置いて過ぎ去るだけだった
置いて行かれれば行くほど、儂はより寂しさを感じ…より一層親しくなろうとは思わなくなった


そのせいだろうか、それとも儂が永く生きる化物であるからだろうか…いや、その両方か

ある日、儂は森の奥底で暮らすように命令された

ああ、慣れたものだ。昔だってそうだったじゃないか

何も変わらない、宿命のようなものじゃないか

そう思った。そう思い込んだ。そうしなければ、辛かったから、悲しかったから

自業自得とは、いえ


そうして、孤独に暮らすことになった

暇、と称しそれを凌ぐ為に限られたもので料理のようなものを作った
陰陽術の鍛錬もした
このように、書を書き記してみもした

そうして、暇と称した…孤独を、耐えた

耐えようとした、強がりで、ただ、弱音を吐かないように

誰もいないのに、誰も見ていないのに、自分ひとりなのに


今思えば、儂も随分と面倒な性格であると思う
どうしてこのような性格になったのであろうか?と考えても仕方なくはあるが


ともかく…そうして、また数百年を過ごした



そして、ある日のことだ

思い出に耽り、ただ時を浪費するかのように過ごしていた時だった

「……なんだろ、ここ……?」

人と、出会った。代々影の頭領が変わる度に挨拶に来る、頭領たちとは違う…ただの、童に


どうやら迷い込んだようだった。ただ、この化物の前へと迷い込んだだけのようだった

ならば、人の群れへ帰さねば…そう思い、帰るように言ったのだが…
全く帰る気は見せず、儂と話そうとしてきたのだ

そう、本当はそれでも帰るように言うべきだったのだろう

しかし…素直に認めるのも癪ではあるが、儂も話したかったのだろう
数百年ぶりに、ただ、普通に…話したかったのだろう
昔に儂がそうしていたように



「…どうしてお姉ちゃんはそんなに退屈そうなの?」

…ある日、聞かれた。それに対し儂は

「…それはな童、儂がこの世を生きようなんてまったくもって思っていないからじゃよ」
「…退屈なだけじゃ…そのくせに、死ねないときたもんじゃからなぁ…」

と、言っただろう。強がりながら、答えただろう。何故、そう思っているのかは答えずに

「…じゃあさ、ボクがいつかここから連れ出してみせるよ。そうしたら退屈じゃないかもしれないよね」

そう、童は言った。…いつも通りだ。同じようなことを言っていた者は、何人も見てきた

「…まあ、まったく期待せずに待つとしよう…儂には時間は腐るほどあるからのう…」

どうせ、また…儂を一人残し、過ぎ去っていくのだろうと
ならば、期待せず…また孤独に戻ろうと強がった
まさか、そうはならなかったのだとは思いもよらずに


僕は、僕が決めた通りに生きる 其の外壱→其の外弐
妖狐の記憶 And future days

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