「…しかし、お主が来るようになってから幾らか経つのう…一体、何が楽しいのやら」

あれからいくらか経って。ボクのいつもの日常に彩が増えた

「ほら、お姉ちゃんボクの知らない事いっぱい教えてくれるし!」
「…ただの暇つぶしじゃがのう…」

とても心地よく…だけど心地悪く、不思議な時間が増えた

「…まあ、悪くはないがのう」

ランが見せるが時々見せる微笑みや笑顔が…

「…しかし、いつまで続くのであろうな…」

ランが見せるその寂しそうな顔が、虚ろな目が…


「…どうしてお姉ちゃんはそんなに退屈そうなの?」

…ある日、聞いてみた。聞かなければならないと思った。…聞きたいと、ボクが思った

「…それはな童、儂がこの世を生きようなんてまったくもって思っていないからじゃよ」
「…退屈なだけじゃ…そのくせに、死ねないときたもんじゃからなぁ…」

ランのつけている首輪は特殊なもので…歴代の頭領の命令に従うようにされているらしい
この小屋に住んでいるのも、そのせいなのだと
しかし…ランが死なないよう、死ねないように強制されているのだそうだ
それがランを苦しめているのだと…

「…じゃあさ、ボクがいつかここから連れ出してみせるよ。そうしたら退屈じゃないかもしれないよね」

…決めたんだ。ボクが、誰の意志でもなく、誰の命令でもなく…

「…まあ、まったく期待せずに待つとしよう…儂には時間は腐るほどあるからのう…」

ボクの…僕の意志で。私/俺の望みでも、願いでもなく…僕の力で


ボクは、彼女の目を…その虚ろな目を、不思議と変えたいと思っていた

今の僕は、ランを笑顔に変えてみせると決めたんだ



「…じゃあ、始めようか。馬鹿らしいとか、無謀だとか…無理だとか、不可能だとか。」
「そんな事言われようと…始めよう。僕達三人で起こす、革命を」

「…俺はお前が本気だなんて、今の今まで疑っていたがな…」

不思議そうに彼が言う

「別にいいんじゃね、コイツが何考えてるのか分からないのはいつも通りっしょ」

呆れた顔で彼女が言う

「あはは…まあ、僕にだって決めたことがあるってだけだよ、それよりも準備は大丈夫?」
「…まあいい。装備はこの通り用意してきた、頭領派の奴が全員いることも確認済みだ」
「知っての通り反頭領派は別館で冷や飯を食ってるからな…特に注意することもないだろう」
「あいつら、無駄にいい設備ですごしてるからな、安心して寝込んでるだろ。」
「ま、逆にそれが仇になるんだけどな」
「…別にお前は無理に参加しなくてもいいんだぞ?ハッキングとナビだけとはいえ」
「…いい、やる。両親はあいつらにやられたようなものだから…あいつらは仇だ」
「…そうか…」
「まあまあ、ともかくとしてジナコがサポート、僕が実行、トビラマはこれからはジナコの護衛をお願いね」
「…本当は俺も行きたいところだが…」
「無理無理、足手まといになっちゃうから。それよりも念の為の護衛、よろしくね?」
「…ああ、分かってる。力不足なのは一番俺が分かっているさ…」

…彼は何を想うのだろうか。彼女は何を想うのだろうか

僕にはわからない。僕の事もあまりわかっていない僕には分かるはずはなかった

きっと、ここにいる三人はみんな、違う想いで居るのだろう

だけど、そうだとしても…みんな、同じ目的でここに集まっている

この現状を変えるため、僕達が思うように生きられるようにするため

その為に僕達は今、戦うんだ…そして、これからだって



「――く、くくく…その恰好、まさかやり遂げるとは…いやはや、生きてみるものじゃのう」

全部、残らず殺して。数は多かったけれども、少数に隔離して倒すのは難しくはなかった
幾ら傷つこうが動きを妨げなければ意味などなく、ただ、ひたすらに
そうして…頭領としての証である、この礼装を手にした。不思議と着慣れた、この礼装を

「さて、約束であったな。と言っても童は今代の頭領となったのだから、ただ命令すればよいがのう」
「儂をどうするのかは…そう、お主次第じゃ」

そんなの、決まっている。ランは忘れているのかもしれないけど…決めたんだから
僕は、ランの首輪を外した…数百年もの間、ランを縛っていた首輪を

「…何を考えている?これで儂は自由なのだぞ?」
「だって、約束でしょ?ここから連れ出すって、そういう約束だよ」
「…律儀にもまあ、そんなことを覚えていたものじゃのう…」
「それと命令じゃなくてお願いなんだけどさ!これからの僕を、隣で見ていて欲しいなって。」
「この影を変えていくところを、見ていて欲しいなって」

ずっと、一緒に居たいなって

そう、言おうとして所で…ふっと、意識がぼんやりとして
多分、倒れてしまったんだと思う。それまでの疲れと、約束を果たせた嬉しさと
他にもいろいろ原因はあったのかもしれないけど…そこで僕の意識は一旦途切れたんだ



「…ん…あれ?」
「おや、起きたか…」

目を覚ますと、僕はランの膝に頭を置いて寝ていた…
…島に来てから暫く経つ…ということは思い出した、のだが

「あれ、何で膝枕に???」
「何、少し昔を思い出してのう…こうしていた時もあったな、と」
「ほ、ほらラン、僕もうそういう歳じゃないかなって!」

急いで立ち上がる。別に頭領としてのメンツとかはどうでもいいけどドキドキするじゃないか

「別にそう嫌がらんでもよいのじゃがのう?」

はっはっは、とからかいながら楽しそうに笑う。本当に、楽しそうに

「…いやまあ、嫌なわけじゃないけどさ!これから決戦みたいな雰囲気なのに、」
「緊張感がないのもどうなのかなって!」
「はて、お主が緊張感なぞ持っていた時なんてあったかのう?」
「…それもそうだったね」

僕は人で、ランは妖狐で

「ま、まあそういう時にキリっとしてるのが頭領らしいかなって!」
「まあそうかもしれぬが…お前らしくはあらんのう?」
「…それもそうだね!」

僕は、僕というものが何なのか全部はわからないし、
僕がランの事をすべて知っているわけでもないけど

「…まあ僕はいつも通りでいっか!」
「うむ、それがよい。お主はお主じゃからのう」

こうして、ランと一緒に居ることが嬉しくて…いつまでも、一緒に居たいと思うんだ

「さて、じゃあ僕もそろそろ出てくるかな」
「…いってらっしゃい、ミナト」
「……ん?あれ?今名前呼んだ?」
「さあ、どうだかのう?」
「……?」

そんな、僕の日常。これまでも、これからも続く僕の日常

いつまでも…好きな人と一緒に居たいと思う、僕の日常なんだ




ちなみにその日食べた影楼の赤いきつねは美味しかった


僕は、僕が決めた通りに生きる その9→その10

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます