どこか真新しい執務室のような部屋。そこには二人の人物がいた
一人は机に積み重なった書類を確認する、コートを着た男性。
もう一人は足を揺らしながら暇そうに男性を見つめるヘッドホンを付けた少女だ。

『……団長、お仕事まだ終わらないんですか?』
「ん?…まぁ、あと少しといったところだな」
『!』パァッ
「だが、まだ仕事は残っているから相手はできねぇぞ?」
『……』ショボーン

仕事が終わると聞き、テンションを上げるも他の用事があると知り一気に落ち込む少女
本来、その感情を表すであろう顔は終始無表情であった。

『…もういいです。ダンマさんたちで遊んできます。』
「悪いな、ティラー。この埋め合わせは必ずする。」
『………約束ですよ?』

そういってティラーと呼ばれた少女は部屋を退出する。
そして、彼女が出て行ったのと入れ替わりに狐の獣人の女性が部屋へと入ってきた。

『あーらら、あれ拗ねちゃってますねー。』
「……後で機嫌直しの菓子をやんねぇとな。ふっ、俺の財布が薄くなるぜ」
『あの子見た目に違わずかなり食べますからねぇ。……まぁ、おそらく、あれの影響なんでしょうが』

そう言った女性、タマモの言葉を聞き、男性、ハーケンは目を閉じ、あの時の事を思い出す。
四年前、先ほど出て言った少女、ティラーの誕生日を祝うために綺麗な夜空の下で
パーティーを行っていた。
創造神が人類抹殺を宣言してからずっと各地を転々とし、活動を続けてきていた彼らにとって
ようやくできた一時の休息。
テーブルに並ぶおいしい料理、次々と披露される芸、そしてあちこちで沸き起こる笑い声。
その中には今回の主役である少女もおり、今とは違って年相応の笑みを浮かべていた。
―――――だが、それも最後まで続くことはなかった。

パーティーも最高潮に盛り上がった頃、空に一つの流れ星が流れ、それをきっかけに
流星群が夜空を彩り始める。
それに気づいたティラーが興奮し、もっとよく見ようとみんなの輪から離れていき…
流星群に隠れて、瑠璃色の光がティラーに向かって飛来し、彼女にぶつかったと同時に
周囲一帯を光に包み込む。
その強烈な光に目が眩み、誰もが動けず、ようやく動けるようになったのは光が収まり
元の風景に戻ってからだった。
すぐさま駆けつけ、ティラーの様子を確認したが、本人も何が起きたのかわからず惚けていた。
結局パーティーはお開きとなり、検査を行ったが異常はなく、何が起こったのかわからないまま
次の日を迎えることとなるのだが、その日を契機に徐々に、徐々に少女の身に
異変が起き始めていく。

小食だったはずが、あるだけ食いきれるほどの健啖家になり、髪や眼の色が
日に日に青く変色していく。そして、最も大きな変化といえば感情の起伏が少なくなり、
仮に露出したとしてもそれを表情に出すことがなくなったことだろう。
明らかな異常にどうにかしようとしても、あの光が何なのかわからない以上、どうしようも
できることはなく途方に暮れていたところに、彼女、タマモがネバーランドを訪ねてきたのだ。

「お前が来てくれなきゃ、今頃ティラーは感情がなくなっていただろうな。改めて礼を言うぜタマモ」
『いえいえとんでもない!「色金」の対処は元々しなくてはならないことでしたし、むしろこちらが』
『謝罪したいぐらいですよ!』
「…「璃璃色金」、か。ったく、面倒なバースデープレゼントを送ってきたもんだぜ。」

そう言って席を立ち、窓から外の様子をうかがうハーケン。
そこから先ほど出て行ったティラーがダンマと富竹をファントムで追いかけている姿が見えた。
悲鳴を上げる筋肉コンビをファントムの方に捕まりながら追いかける彼女は無表情ながらも
楽しそうにしている。

「……なぁ、表情に関しては、どうにもならねぇのか?」
『難しいでしょうねぇ…私の術式で璃璃色金を抑え込み、あなたたちとの交流で』
『何とか感情の喪失は防がれましたが、表情となるとやはり、これから次第になるかと』
「…そうか…なら、やるっきゃねぇな。あいつらから預かった大切な娘だ。このまま放っておいたら」
「あいつらに立つ瀬がねぇ。…それに、女にはスマイルが一番似合うもんだろ?」
『相変わらずギザったらしいですねぇ…ですがま、それには同意見です。このタマモ、ぜひとも』
『協力いたしますよぉ!』

こうして、大人二人は再び決意をする。表情を失った少女に再び笑顔を咲かせることを
これは、少女が箱舟に乗る数年前の一幕







『あ、そうそう。入団した時にも言いましたが、あの子に色金の能力を使わせないように。』
『でないと浸食が再び始まりますからね。』
「わかってる。使うにしても「瑠瑠色金」ってのを手に入れてからだって話だろ?」
『そうです。私の持つ「璃璃色金」と「瑠瑠色金」。この二つが揃い、これらを使った装備と』
『揃ったことで具現化する物を纏うことで、初めて浸食されずに能力を使うことができるんですから。』
「OKだ、解説フォックス。あいつが無自覚に使う可能性もあるからな」
「それの捜索も全力でやるさ。……たとえどんなに時間をかけてでも、な。」

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