最終更新:ID:IKdjXmX7lA 2016年10月10日(月) 18:34:00履歴
恋に落ちたのはいつの事だっただろう。
そもそも、これを恋だと思ったのは何が切欠だっただろう。
実際役目上、自分は拠点の外から薬草を拾い集める必要があり、彼は自分よりもこの島の地理に明るかった。当然だ、彼は私よりも先に皆と島に流れ着いて拠点を築いているのだから。
異性として意識するようになったのは胸囲の話での時だ。胸を大きくするための勉強をしていたら、胸骨を気にしている勘違いされた。あの時は意地を張って骨を丈夫にしたいと言ったけれど……違います、大きくしたいのです……ハイ。
後は何だろう。勉強熱心なところ、仲間のストレスを和らげるためにリラックスするお茶を作ろうとしたり、安藤さんに作法とかを教えてもらったり、パシリ三等兵……というより皆のために奔走する何でも屋さん、という認識になっていった。
何度か森へ誘って貰って、木々の様子を確認もした。正直、ケットシー以外の人たちを見るのは初めてだったので最初っから最後まで緊張しっぱなしであったのは今でも秘密。
泉に船を浮かべてワニを釣り上げたり――そうそう、あの時命をかけて守ります、と言ってもらったとき。これが最初の切欠だったのかもしれない、無作法ながら、あの時は吃驚して何も返せなかった。
あの後全裸様……じゃなくて精霊様の力で元に戻った時は、本当に人間だったのだと深く安心していた。安心していた――ああ、もうこの時から坂を転がり始めていたのかもしれない。
鰻の蒲焼きを手ごと食べてしまった後、穢されてしまったとさめざめ泣く姿を見て真面目に責任を取る、と言ったら冗談に取られた。まあ、あの時はこちらも冗談半分だったのだけれど。
問題はその後だ。ケットシー流グルーミング…………髪を誰かに許したのは、ババサマ以来のことで。実際やってもらったときは鼓動の音がとてもうるさかった。
……家族も同然と言ってくれた。家族というコミュニティ。寄り添いながら生きる、離れられない一つの輪。それは、生まれてこの方欲しかったもの。それを明確に与えてくれたのは、この人だった。
こちらを意識してくれないかな、と思って旦那様と呼んでみたら奥様と返してきた。うん、これはまだ冗談の域を越えていないと内心悔しかったりもした。不束者ですがとも言ったが、やっぱり流された。手強い。
けれどまた髪を梳いてくれる約束ができたのは、私にとって大きな一歩だ。また、あの暖かな手に触れてもらえる――楽しみでならなかった。
彼がしみじみと、家族が欲しかったと言った。であれば私は、彼の家族になりたかった。仲間という家族ではなく、番という意味の家族に。
そこでようやく一瞬でも意識してくれたようだ、だがしかし流される。身持ちが固いというのは美点である、より一層、魅力的に思えるようになってきた。例え姿がペンギンでも人間でも、私にその差異は無かった。自分が元よりマナで作られた存在のせいかもしれない。
そして呼び捨てで呼び合う仲になれた。距離をまた一歩、縮めることが出来た。私は誰かのために奔走するその背中に追いつけるだろうか。
欲張ってもう一歩、とその日のうちに二度目の、不束者ですが、という一文を贈れば鸚鵡返し。ああ、これはまだまだだと肩の力を抜く。
彼の形をしたぬいぐるみを作ったり、赤いマフラーを贈ったり。そして、贈られたり。その後暫く続けた草木染めの材料採集に付き合ってくれたり。カリューさんと鹿をとったり。
いろいろなことがあって――……
あの日、私の里へ一緒に行ってくれると言った。今となってはそれを行えばどうなるかを知ってしまったけれど、私はあの時の約束の歓びを忘れない。
だからこそ思いを告げた。明確な言葉として、心のなかに積もった恋を、愛に変えたくて。その返事を知るのは恐ろしかったけれど……
誰かのために全力を尽くす貴男の背に、やっと追いついた気がした。
これからも隣で歩き続けられるよう、全力を尽くします、ネ。
このページへのコメント
「ふむ…自分が随分やきもきさせていたようで…未だに自分の生き方さえ変えられない未熟者でありますが…これからも隣を歩いていてください。」
お疲れ様です!ラッド最低だな!