森の奥の小さな広場
生い茂る木々の中にぽっかりと空いたその中心に三人の女性が立っている

一人は日傘を差し、神気を纏った緑色の髪の女性――ユウカ

一人はどことなく挑戦的な笑みを浮かべている金色の髪の女性――エリザベス

一人はエリザベスの<同位体>であり、胸に一振りの剣を抱いた金色の髪の女性――フェリス

「一応、周辺に結界は張ったけど…どうなるかは未知数…あまり無理してはダメよ?
私のと、と、と…尊い加護を与えた貴女に何かあったら、加護を与えた神としては――」
「ユウカは友が心配みたいだ。上手くやれよ。妹よ」
「ちょ――!?」

元妖精であり、現森神のユウカが顔を真っ赤にしてエリザベスに掴みかかる
その様子を見て苦笑しながら、フェリスは胸に抱いた剣をじっと見つめ

「ん…それでは始めます、ね、それと妖精さんの方が姉ですから」

一言、しかし力強く宣言する
その言葉に取っ組み合いをしていたユウカとエリザベスはふざけるのをやめるとフェリスから少し距離を取る
フェリスを中心に左右にユウカとエリザベスが立っている状態である
フェリスは胸に抱いていた剣――「約束された勝利の剣」を上空に放り投げると
即座に腰に挿していた双剣を引き抜き、落下してきたそれを――

真 っ 二 つ に 叩 き 割 っ た

「……………」
「……………」

ユウカとエリザベスはその破壊をじっと見つめる
真っ二つになった希望の武器。もしもこの様子を他の誰かが見ていたら頭を抱えていただろう
しかし二人の妖精と元妖精の神は継承者の行いに眉を動かさず、瞬きをすることもなく
ただ真剣にそれを見つめていた

「ん……!」
フェリスは音速超過の剣の舞を、空中で真っ二つになった希望の剣に、さらに叩き込んだ
何度も何度も何度も何度も切り刻み、原型を留めなくなるまで破壊していく
希望の剣は粉みじんとなり、最後に残ったのは装飾に使われていた小さな宝石だけだ

「やっぱり一筋縄ではいかないみたいです、ね」

フェリスは最後に残った宝石を拾い上げると太陽に透かす様に覗きこむ
そこには小さな虹色の欠片が封入されており、きらきらと輝いていた

「継承したのは貴女――三人でやればなんとかなるでしょうけど、それじゃ意味がないわ」
「無理そうならお姉ちゃんに任せてもいいんだぞ?」

ユウカとエリザベスの言葉に宝石の中を覗き込んでいたフェリスは微笑みを浮かべ

「二人とも心配しなくても大丈夫です、よ
ちゃんと希望は継承しますから――」

天高く虹色の欠片が封入された宝石を放り投げる
フェリスは双剣を合わせ、大剣形態に変化させると自身のマナで巨大な光刃を形成
落下してくる宝石に向けて一気に振り下ろした

――パキン

小さな音を立てて、宝石が砕かれる。完全なる破壊の完了
そしてそれは「開放」の合図

「――――っ!」
「これ程とは、な…! しかしこれが――」

ユウカが周囲に張り巡らせた結界を強くして、そのユウカを護る様にエリザベスが立ちはだかる
フェリスは荒れ狂うマナの暴風の中心で「それ」と対峙していた

「お初にお目にかかります「私」」
「おー、よろしくな「私」」
「はい、よろしくです、よ「私」」
「そっちの「私」もよろしくなー」
「ああ、よろしくだ「私」」

砕かれた宝石から現れたのはフェリスと瓜二つの女性だった
彼女はフェリスとエリザベスと奇妙な挨拶をかわすと
こくり、と不思議そうに首を傾げ

「それで何して遊ぶ…?「私」」
「何してというか…今ちょうど遊んでいるんです「私」」
「おー、混ぜてくれるのか? 「私」」
「その為に「私」は「私」を解放したんだ」
「つまり、遊びの誘いです、ね…一緒に楽しみましょう「私」」
「なるほどなー。それでどうすればいいんだ? 「私」」
「先方が言うにはラスボスをして欲しいみたいですよ「私」」
「ラスボスかー…正義の味方を引き立てる役をすればいいのか?「私」」
「ふふふ、今の時代は悪が勝つのがトレンドです「私」」
「むしろ勝った方が正しいとも言えるぞ。「私」」
「そっかー……それじゃ頑張ろうな「私」」
「ええ、頑張りましょうですよ「私」」

同じ顔の三人の妖精が行う不思議な会話
それをユウカはじっと見つめていた

「あれが原初の妖精…約束された勝利を冠された剣に封入されていた力の源というわけ、ね」

ぽつりと呟く
装飾を施された剣にはめ込まれていた宝石。その中に封印されていた虹色の欠片
それこそが原初の妖精の核の欠片であり、あの剣の本体であった
そのことに気付いたフェリスが自分の元に来て破壊するのを手伝って欲しいと言った時は耳を疑った
希望の力を持った武器は黒幕を倒せる最後の可能性。それを破壊するなんて…
もちろん最初は反対した。しかし――

「妖精は自然と生き、自然に還るもの、か…」

下手をすれば希望が失われるかも知れない
けれどそれ以上にフェリスは小さな宝石に閉じ込められていた原初の妖精を憂いていた
その様子を見て、かつて自分も妖精だったことを思い出し、気付けば承諾してしまっていた
考えてみれば「仲間」を大切にする妖精が、閉じ込められている「仲間」を放置できるわけがないのだ
原初の妖精は総ての<妖精の女王種>の始まりであり<妖精の女王種>は原初の妖精の因子を持つものだ
<妖精の女王種>ではなかった自分には細かい心情はわからないが、きっと「そういうこと」なのだろう

「お待たせです、よ」
「待たせたな」

フェリスとエリザベスが戻ってくる
気付けばマナの暴風は収まり、穏やかな風が戻ってきていた

「それが…?」

ユウカがフェリスの胸元を見やるとそこにはフェリス自身が砕いたはずの剣が抱かれていた
見た目は同じだが、金属で作られていた時とは違い、何処か自然の温もりを感じる
それは原初の妖精自身のマナで形成された剣
それは宝石に閉じ込められているわけではない。原初の妖精そのものが姿を変えた剣
フェリスは微笑み頷くと、胸元に抱いた剣をぎゅっ、と抱きしめ

「はい、一緒に遊んでくれるそうです、よ」
「そう…楽しく遊べるといいわね」
「私達を駆り出したんだ。つまらなくしたら興ざめだぞ?」
「心配しなくても大丈夫です、よ。きっと楽しくなります。だって――」

「――仲間と一緒に遊ぶのですから」

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます