僕は、良く夢を見る。

何時から見ていたのか覚えちゃいないけれど。

何処までも続く荒野に、満点の星空と、一等に輝く一番星が燦然と輝いていた。

そして、見知らぬ誰かが立っている。

淡い桃色の長髪をたなびかせ、半透明の羽を広げたドレス姿の誰か。

その後姿は、どこか悲しそうで、声を掛けたくても、声は出なかった。

だから一歩近づこうと、足を進める。

声を掛けられなくても、意志は伝える事はきっとできる。

そう思って近づいても、距離は縮まる事は無かった。

また一歩、もう一歩、あの後ろに向かって進んでいく。

星を背にしたあの子に向かって。

何度も、こんな夢を見ている。

未だに、辿り着く事が無い、行き着いた事の無い世界。

とうとう、今日も辿り着けなかった。

ふっと、視界の端が黒く染まり出し、ぐっと体が引き戻される感覚。

そこでいつも、ああこれは夢だと気づく瞬間。

微動だにしなかった彼女なのか、誰かは分からない。

でもはっきりと聞こえるんだ。

「天に続く道を辿って、希望の塔を駆け上がって」

『希望がそこで待っている』


………うん絶対に行くよ、絶対に。


そこで僕はいつも目覚める。

「……、くぁ、ふぁ〜……もう、朝…」

小さい木造の一室、くたびれたベッドに古い一枚の毛布
部屋の隅には大きいバッグや私物が転がっている
窓にはカーテンがかけられているが、ところどころ破けていて
外の光が入ってきている。

体の筋を伸ばしながら立ち上がる。

くっと力を入れて脱力する、体が軽い、なんだか調子が良いみたいだ。

そのまま、窓へと近づき、シャッとカーテンを引けば、外には廃墟が広がっていた。

ここは、旧時代の街の名残だ。

瓦礫と自然が融合したボロボロの街、そこにわずかな人が集まり
細々と生活を営んでいるそんな名前すらない場所。

旅の途中で僕はここに立ち寄り、部屋を間借りしている。

旅をする路銀も底が見え始め、困り果てていた所に街が見つかったのは幸いだったものの。

基本金銭のやり取りは無く、狩りや物々交換などでの生活が成立していた。
例外は一つ、一ヶ月に3度ほどやってくる行商人が唯一お金のやり取りができ、旅の備蓄を貯める事ができるのだが…。

「……、そろそろ三ヶ月目か……」

なんとか街の生活に慣れて、日々を送る事が出来ているが、取引相手が何時来るか分からない現状
一番の儲けとなるのは動物の毛皮などだ、新鮮な肉などはすぐに腐ってしまうし
保存するにも、保存する方法がない。

頭の中で、今まで儲けたお金の計算をするが、あまりの収入の少なさに涙が出てきてしまいそうだ。
行商人の後を着いていけば、多少はお金も浮くかもしれないが、次の街で確実に行き倒れだ。

「はぁ……」

世知辛い、そう思いながらため息を吐く

……いけない精神の負のスパイラルに嵌りそうだ。

頭を振って、嫌な考えを振り払う。

駄目だ駄目だ!うん、元気に行こう、前向きに!きっとなんとかなるさ!

心で奮起し、元気を取り戻す。

計画性が…、一瞬頭にそんな言葉が過ぎったが、それすらも振り払う。
勢いだけが、僕に今生きる活力を与えてくれるんだ!

「…が、頑張れば大丈夫さ」

……与えてくれるんだ!きっと!活力を!

「なにが大丈夫なんだい?」

「うひょわぁぁ!?」

いきなり真後ろから声がかかり、素っ頓狂な声が上がる。

その様子を見てか、背が曲がった初老のおばあさんがやれやれと言った様子で僕を見ていた。

「マ、マイヤーさん、お、はようございます」

「はいおはようさん、アステル、朝ごはんの時間だよ、食べるならさっさと降りてきな
時間が過ぎたら別料金だよ」

そういいながら彼女は後ろを向いて歩き出す。

「い、今行きまーす」

彼女はマイヤーさんというこの、間借りしている部屋、というよりも建物の管理人だ。
こうやって間借りしている人の世話を焼いてくれている。

部屋の中に音も無く入ってくるのは勘弁して欲しいが、すごく世話になっている。

そんなマイヤーさんの後ろを追って部屋を出る。

「今日も狩りに行くのかい?」

「ええ、少しでも次の行商人が来るまでに取引する物を揃えておきたいので」

「……、アンタも可笑しなマネをするね、こんな時代と世の中で旅なんてさ」

その声は呆れ交じりの声だ、いや本当に呆れているのだろう。

「…いや、でも楽しい、ですよ?」

「……まぁ楽しいんならいいんじゃないかい、止めやしないさ」

理解できないといった様子で、こちらを振り返りながら

「お前さん、時々夜が煩いよ、壁が厚いわけじゃないんだから
寝相が悪いよまったく」

え”、そうなの?

「え、僕、そんなに煩い、ですか?」

ちょっと自分でもショックだ……。

今まで知らなかった事実につい聞き返してしまう。

「ああそうさ、丁度今日も煩いって苦情が来てたよまったく」

「ご、ごめんなさい」

「謝んなくても良いから直しな、それか枕被って寝な
…、変な夢でも見てんじゃないのかい?え?何みてんだい?」

……そんなこと言われても、夢か…夢…、夢。

そう、僕は何か夢を……

『ううん、まったく覚えてないよ』

「…だったら寝相だね、ちゃんと治しとくんだよ。

…………。

「ね、寝相を治すって…ど、どうすればいいんだろう…」

寝方でも変えてみようかな……。

今夜あたりにでも試してみよう、とりあえず朝ご飯を食べなきゃ

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