歩く、歩く、歩く、歩く、歩く
何処へともわからず何処を行く場所もなく歩き続ける、
この罪を背負って彼は何処へともなく歩き続けた。


とある集落に着いた、その集落は未だに文字が発達していなかった
それを見て気まぐれに彼は集落の者達が知らぬ知識を教えた、その知識には集落の住人は大層驚いた。
だがその集落の者達は学習速度が早くあっという間にバルハルが教えた知識を習得した、これには逆に彼が驚いた。
そして知識の返礼だと集落の住人達は宴会を開いた、久しぶりに彼はこの宴会で心休められた、
そこに一人の少年が近づいてきた、

「ねーねー、旅人さん」
「何かね少年よ」
「旅人さんは外の世界から来たんだよね、なら外の世界についていっぱい知ってるでしょ?」
「ああ、そうだね。外については少なくないことを知っているよ」
「ならさ、僕に教えてくれない外について?前々から興味があったんだ!」
「……いいだろう、私の話が君の興味を引き出せるのであれば幸いだ」

彼が話した内容は少年を外の世界に憧れを抱かせた、見たこともない果実に動物、そして怪物、
それら全てが少年の心躍らせ、彼は夜更けまで自分の旅を語った。

翌朝、彼がこの集落から旅立とうとした時、話を聞いてきた少年にお守りを手渡しこう言った。

「もし困ったことがあるならこのお守りを使いたまえ、きっと君の役に立つだろう」

そう言って彼は集落の人々に見送られて去って行った、少年はその後姿を何処までも何処までも、
彼が見えなくなるまで見つめていたと言う。
それから集落はバルハルが授けた知識によって順調に発展していき、町と呼べるまでになった。その頃には少年は青年となり町から旅立った、
それは嘗て自分に外の世界を教えてくれた男に会うための旅であり外の世界を知るための旅でもあった。
旅の中で青年は何度も危機に陥ったしかしそのたび彼から貰ったお守りによって何度も命を救われることになる、
そして青年は世界の広さを知り、町へと戻ってきた青年の帰還は町の人々に驚かれ、しかし歓迎された。
青年は町で英雄と言われ、また青年も町のために外で学んだ知識を惜しげもなく使い、町は更に発展する事になる
だが青年は彼と出会えなかったのを一つの心残りとし、せめて彼がこの町に居たと言う証を残そうとし一つの昔話が生まれた。
その昔話はこの町一番の有名な話として今も残っていると言う。

歩く、歩く、歩く、歩く、歩く
行くのは無限の荒野、自分は時の中で置いて行かれる人。
だがそれでも、この罪をこの世が終わるまで背負うと決めたからには、歩き続けなければならない。

次は港町に着いた、活気があり、人がそこかしこを行きかい珍しい品も売っている。
彼はその港町でフラフラと見聞していたが突然上から女の子が降ってきた、彼はそれを受け止めた、
少女は目をパチクリさせてから、慌てて降りた

「も、申し訳ありません!突然受け止めていただいて」
「いや、構わないがなんで降って来たのかね?私がそれが不思議でならんのだが」

そう聞けば少女は口を閉ざし、喋るかを一時躊躇い少し考え喋る
自分は悪い人たちに追われているたのだと、ようやく振り切ったのだと。
彼はその少女の言が嘘半分真実半分であると見破った、まず少女の服装である、
格好は一般的な市民と同じように見えるが、一般市民よりも上質な物で作られておりそこら辺の者達とは一線を画している
そしてその立ち振る舞い、本人は隠しているのだろうが所々ボロが出ている、彼の観察眼であれば見切るのは容易だ
だが彼はそのことを指摘しない、なぜならそれは彼女が望まないと思うがゆえに。

「ふむ、それで君はこれからどうするのかね?」
「えっと……少し街を見て行きたいのですが、この街は初めてで……」
「ふむ、ならば私ともに来るかね?私もここは初めてでな、知らぬ街を二人旅と言うのも乙である」

少女は少し思考した後にその提案にOKと答える、少女自身今は彼しか頼れないのであった。
そして二人は、この港町の散策を始めた、街中を散策し時には食べ物に舌鼓を打ちつつ、
時には珍しいショーを見て体験し、時には海にいる水生動物達を見学し、釣りを行ったり
そして散策の途中で少女はとある小物店のペンダントに目を引かれた、
彼はその目線の先を追いかけてペンダントがほしいと察し。

「ほしいのかね?」
「あっ……はい」

少々恥ずかしげに少女は答える、彼はそれを微笑ましく思い、
少し提案してみた

「ふむ、では私が買ってあげようか?」
「えっ、そ、そんなだめですよ」
「いいからいいから、物ほしそうな顔を続けるの君を見続けても良いが
それに時間を取られて他の所にも行けないと言うのも味気ない話だろう?」

少女の顔が少々赤くなるが彼は気にせずお店に入り少女が物ほしそうにしていたペンダントを購入しようとして
少女がそれと同じのペンダントを会計場に置いた

「これはどうゆうことだね?」
「お礼です、貴方ばかりに頼ってばっかりでしたしね」
「そうか、ならばありがたく頂戴するとしよう」

苦笑を交えつつ彼と少女は代金を払い店を出て、町の散策を再開した。
それから、名物の場所を観光し、隠れ家的名店に入り舌鼓を打ちながら談笑し、
みんなが集まりそれぞれの時間をすごす公園で休み、それからと言うのも町を巡り
そして時は過ぎ夕刻になっていた。

「時間が経つのは早いですね」
「そうだね、だが年を取ると遅く感じてしまうよ」
「年を取るですか、そんな風に見えませんが」
「私にも色々とあるわけだよ」

苦笑をする彼を見て少女はこれ以上の追及をやめた、それ以上は自分が踏み込める領域ではないと思うから。
そして海岸を見れば美しい夕日が見えた。

「美しい……夕日ですね」
「うむ、この町の最後の思い出に相応しいな」
「ええ、そうですね」

しばし二人はその夕日を見つめる、そして少女が彼のほうに振り向き、
綺麗に頭を下げた

「ありがとう御座いました、私の我儘に付き合ってもらって」
「構わんよ、私も楽しめたしね」

少女が頭を上げれば、彼は静かに微笑む
その笑みは儚くも感じられた。

「……綺麗な笑みですね、そして儚くも感じられます」
「意図してはいないのだがね、君は感性が豊富なようだ」
「あっ、いえその失礼しました……」
「いいさいいさ、私は気にしはしないよ」

そうやって言葉を交わしている途中で少女の名を呼ぶ声が聞こえた
どうやら少女を探しているようだ

「これでお別れのようだね」
「はい、これで私の最後の自由時間は終わりです」
「そうか、……君は何処かに嫁ぐのかい?」
「ええ、そう言う事です。それで脱走しましたけどね」
「ハッハッハ、君も中々剛毅なものだな、うん、それなら君は大丈夫だろう」

そして声が近づいてくる、どうやら場所が分かったようだ
少女は名残惜しそうに、しかしそちらに行こうとして彼に最後の声をかけた。

「貴方とはもっと早く出会うことができれば良き友となれた気がします」
「ああ、私もそう思う、だが運命は紡がれなかったそれは致し方ないことだ
しかし一期一会の出会いもまた乙と言う物だよ」
「そうかもしれませんね、ですが貴方とはまた会いそうな気がします」
「確かにまた縁が紡がれればもう一度君と会うのかもしれん。だがそれが良いこととは限らんよ」
「いえ、きっとそれは良いことだと思います」
「どうしてそう思う?」
「勘です!」

そういう少女に彼は少し呆けてからついつい噴出してしまった
ここまで断言する人と会うのは久しぶりだと思いながら
そして少女はその噴出しに疑問を上げている

「えっと、何かおかしなことをいいましたか?」
「フフ、いやすまんな。ああ、きっと君の言うとおりになるのだろうな」

少し彼は落ち着き、少女の目を見据える
その目を見れば少女の不屈の意思を表しているかのように力強く輝いていて
この子なら大丈夫であるとそう思えた

「さようなら、ではないな……うむ、まただなこういう時は」
「ええ、また会えるのならばまたと言うのがよろしいでしょうね」
「ああ――ではまた会おう少女を君の未来が幸であらんことを」
「はい――またお会いしましょう、貴方の旅に幸が訪れんことを」

そう言って二人は別れる、この出会いは偶然だしかしまた会えると言う確信を持って
そして少女は自らの護衛の者と合流して自らの家に戻る、自分の義務を果たすために
彼は自らの終わらぬ旅を続けるために、二人の道は分かれる。

そして少女と婿が結婚するその日、少女は緊張していた、婿とは仲がいいとは言え多くの人の前でやるのは初めてだから
その少女の様子を見て婿はその緊張を解すように接してくる、婿も緊張しているようだったがそれでも少女のために、
わざわざ来てくれたのを少女は感謝するのだった。
そして式が始まり、順調に順調に進行して行き、二人は誓いのキスを交わし拍手が巻き起こる
それがなんだか嬉しくて恥ずかしくて少女は夫となった青年に身を寄せた。
そしてその式を遠くから見守る男が一人、彼だ少女と一緒に町を散策した彼だ、どうやら式が気になったらしい、
遠目の魔法で少女が幸せそうな顔をしているのを見て、自分でも気づかぬうちに自然と笑みがこぼれていた。

「――幸せにな、名も知れなかった少女よ」

そして、彼はその場所から去っていく、二人の未来を祝福して二人の未来に幸があらんと祈って、
彼が去った後にこの一面に花が舞い、それは二人のところにまで届いたと言う。

――それからとても長い年月が過ぎた、少女はすっかり年老いて老婆となった
あれから旦那を良く支え、二人三脚で家を良く盛り立てた、その姿は人々の手本となり尊敬されるほどだった、
だからだろう、彼女の家は今や世界でも有数の家となっていた。

「ふふ、ここまで来るのに色々なことがありました」

彼女はそう呟く、誰もいない自室で過去を振り返りながら。
本当に本当に多くのことがあった、礼儀に各有力者への顔つなぎそれから資金集めなどなど
そして最も辛かったのは旦那が亡くなってしまった事だった、あの日はどれだけ泣いただろうか。

「けれど、私は頑張りましたよ旦那様」

そう言って静かに笑う、今や彼女の体はボロボロで自由に歩き回ることすら出来なくなっている
だが自分がいなくとも自分の後継たちならうまくやってくれるだろうと心中思っていると
――窓が開き一人の男性が入ってきたのだ、それを見た彼女は

「――あらあら、お久しぶりですね」
「――まったく、まだ覚えているとは君も奇特な人だね」

男が一つため息を漏らせば彼女は笑う、
たった一つの出会いを覚えていると言う事実に男はある意味驚き呆れていた、

「やれやれ、普通であれば衛兵を呼ぶだろうに君も図太くなったものだ」
「長く生きましたからね、その都度苦難にあっていれば図太くもなりますよ」
「ハハハ、そうだな違いない」

和やかな談笑、男の方は若く彼女は老いている、しかしそれを感じさせぬほどだった、
そしてある程度経ち彼女が口を開く

「それで何用ですか、今の私は引退していて何も出来ませんが」
「和やかな談笑では駄目かい?」
「まさか、貴方がそれだけで来るとは思えませんよ」
「勘かい?」
「ええ、そうですよ」

そしてまた二人は笑い合う、昔と変わらぬ人とともに
しきりに笑い合った後に男はスッと息を吸ってから話す

「――見送りにきたのだよ、君のことを」
「あらあら、見送りだなんて私が見送るほうですよ?」
「そう言うことではないのだが」
「ええ、ええ、分かっていますよ私の体のことは私がよくね」

彼女がそう言えば、男はまた一つため息を吐いた
なんと物分りがよい女子かと。

「それで私は後どれくらい持ちますか?」
「もう直ぐだろうかもう数分かどちらかだろう」
「なんて曖昧なことなんでしょう」
「だがこの夜に亡くなるのは確実だ、この私が保証する」
「おや、案外ストレートに言うのですね」
「それが私故な、それに君とてこの程度で動揺することがなかろう」
「ええ、そうですね」

そしてしばし沈黙が訪れる、数分しかしその数分が長く感じられる
彼女は少し思案顔で、男はその姿をしばし見つめる

「では、そうですね貴方と別れてからのお話をしましょう」
「ほう、君の人生か興味深いな」
「そして、この話が終わったら貴方の話も聞かせてくださいな」
「むっ、そう来たか」
「駄目ですか?」
「……………いや、構わんよ私の話が冥途土産になるのなら幸いだ」
「ふふ、そうですねでは始めましょうか」

二人は語りだす、自分達が歩いてきた足跡を軌跡を、自慢げに淡々と
それから何時間も語り合うそれほど二人にとってはこの話し合いは楽しいものだった。
そして男のほうが語り終わると彼女が少し咳をした。

「ああ、もうですね」
「そうだな、次眠れば君は死ぬだろう」
「苦しまず逝けるのならばそれは良いですね」
「君は人生を駆け抜けた、ならば安らかに眠るのは道理だ」
「ふふ、ありがとう。ああそうだ最後に一つだけ聞きたいことがあるのですが」
「何だね?答えられる範囲でなら答えよう」
「貴方が言う冥府神様はお優しい方ですか?」
「……そうさな、あのお方達は公平で平等な方達だ、だが大丈夫だ君ならば良き審判を下されるだろう」
「そうですか、なら言うこと無しですね……眠くなってきました」
「ならば君が寝るまで私は見ていよう、それこそが私の役割ゆえに」
「ええ……ありがとう御座います……」

彼女はいつものように眠る体勢を取る、これから死に行くのを感じさせぬくらいに、
男はそれをただただ見ている、彼女の安らかな眠りを妨げないように。

「…………一回会っただけと言うのにこんなに話し込んでしまいましたね」
「そうだな、私も不思議でならないよ」
「ふふ、何かの運命でしょうかね」
「さてな、だが不思議とそう感じることではある」

そうして言葉を投げかけたが彼女からの返答はない、逝ったかと男は思った
安らかにしかし死んだように思えない顔を見て静かに立ち上がり彼女が眠る横にある椅子に花を置く
逝った彼女の手向けとして、置くと男は少し寂しそうな顔を見せて入ってきた窓に向かう
窓の傍まで行けば、男は彼女のほうに振り向いて

「――安らかに」

そう言って彼は窓を出た、寂しい思いを背負いこんでまた別れを経験して、
だがそれで彼が止まることはない、なぜならそれが彼だから止まれないのが彼だから
その原罪を背負って彼の旅は続く、だがその話はここで一旦お開きにしよう。

彼――――バルハルという男の足跡はまだまだ長くそして語りつくせないほどあるのだから

このページへのコメント

いい雰囲気の話でした。
出会いが有れば別れも有りますが、
良い想い出と出来たならば、幸いな事かと。

0
Posted by クロマツ 2016年10月09日(日) 11:37:05 返信

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