拝啓 父上様

中立派とやらに属して、今も世界のどこかに潜伏しているであろうお父様(仮)お元気でしょうか。
ユキノお嬢や師匠や頭のおかしい同僚共は元気にしているでしょうか、相変わらず馬鹿なことをしているのでしょうか。
私が屋敷を首になってから早いものでもう数ヶ月がたちます。
私は今、神賽島というところにいて、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれています。あのチケットを手配したのは一体どういうつもりだったのでしょうか。
というかこの島に来てから私の出生を始めとした色々な事実が発覚して正直貴方のことを一発殴りたくて仕方がありません。覚えてろよ。

敬具
ps 私の母を名乗る女性が最近蘇りました。あんたもうほんとにいい加減にしろよ(八つ当たりおこ)



「……ふう」
現実逃避に書いた手紙を机の中に仕舞う。
今日は色々あった。
彼女の両親との遭遇やら、死んだはずの幼なじみの蘇生、そして
『あの…』
振り返るとそこに正座している俺の母を名乗る女性。
『竜…』
どこまでも無表情で、感情を感じさせずに、こちらを見つめている。
困ったことに赤の他人だと思いたくても、心の奥底にそれを否定する何かがあるのも事実。
大きくため息をつき、言葉を切り出す。

「…あんたの話は分かった。毒飲みの一族の巫女で、親父であるところのマースさんと駆け落ちして俺を産んで死んだ、と」

『はい、その通りです』

「あの新世界の神(笑)の野郎、次会ったら今度こそ顔ぶん殴る…!」

今ここにいない元凶に対して殺意を抱いていると、母(仮)が

『あの、ごめんなさい。今更、母親面されても迷惑だよね』
『私は、貴方を育てられなかった。それどころか、貴方を施設に預けるように言ったのも私。あの人から遠ざけたのも私。』
『だから、恨むのならマースじゃなく、私を恨んでください』
『私のことを、母って思わなくてもいいから、ね?』

表面上はピクリとも変化していない。が、なんとなくだがこの人の感情に察しがつく。
親子ゆえなのか、それとも、もっと別の何かなのかはわからない。
けど、とてつもない後悔と、悲しみに苛まれていることだけは、わかってしまう。

「…………はぁ」
頭をガシガシと掻きながら不安そうに揺れる相手の瞳をみる。
我ながら甘すぎるとは思うが、女性のこういう顔を見ると今まで抱えてきたものがどこかに吹き飛んでしまう。

「……タバコ」

『え?』

「タバコ、吸ってもいいかよ」

『あ、うん。私に、毒は効かないから…、遠慮しないで…』

許可を取りタバコに火をつけ、一服する。

「本音を言うと何を今更って気持ちが強い」
「…ガキの頃からあの施設で育って、ずっと親はいない、捨てられたと思って生活してきた」
「家族だったやつも、あんたの一族の毒で1度殺した…」
「なのに、この島に来て、勤め先の偉い人が親父で、妹で、なんだかんだで母親が生き返りましたって」
「今までの俺の人生とんだ喜劇じゃねぇか」

そう吐き捨てるように言うと、母は今度は目に見えて悲しい顔をして、目を伏せる。

「…だけど」

「俺、結婚したわけでもないのに、義理の子供がたくさんいて、恋人が三人もいて、今じゃ親バカなんて呼ばれてる」
「だから、あんたらが息子であるところの俺のことを想ってくれてたことはわかるよ」
「そして、色々言ったが、こうやってちゃんと面付き合わせて会話できるのを、嬉しく思ってる」

そう言い、薄く微笑むと母が顔を上げ、こちらを見上げる。
なんとなく照れくさくなり頬を掻きながら、

「まぁ、なんだ。もやもやが完全に晴れた訳じゃあないが、そんなもんこれからどうにかしとけばいい」
「……だから、これからよろしく。お袋」

そう、言葉を絞り出した。

『…………』ブワッ

「っておい!?泣くなよ!いや、ちょっと待て!ほんとに!?」

『…だって、私はダメな親。愛を、貴方に注ぐことをしなかった。出来なかった。あの人に重荷を背負わせた。…なのに、貴方はあの人と同じようなことを言うから』グスッ

「あぁもう、見た目に反して偉く感情が豊かすぎねぇか!?」

泣き出したお袋を必死に宥めていると、部屋の扉が開き、

『あの…、お父さん?今度の依頼に関しての話なんですが…』

静謐(地雷)が投入された。

『…………ヒュドラ様?』

『えっと…、あれ…、貴女は確か…、一代前の巫女の…』

『今、竜の事をお父さんって…、えっ。……えっ?』

「あ、これ収集つかなくなるやつだ…。おっかしいな、さっきまでシリアスだったはずなのになぁ(遠い目)」

『………………きゅう』気絶

『あ…、倒れちゃいましたね…。ナイチンゲール先生をお呼びしますか…?』

「……そうするか」

こうして、とりあえずのところ俺はこの人、ネム・ヒューズを母親と認めたのであった。



拝啓 クソ親父

このクールな見た目に反してポンコツで内面感情が豊かな母親をどうにかしてください。
あと、せっかくお袋が蘇ったんだし、とっとと姿を見せろ。
俺じゃ手に負えないぞコラ。

敬具
貴方の息子であるところの安藤竜より。

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