最終更新:ID:tNQJaiuoNA 2016年09月14日(水) 02:35:28履歴
「汝、英国紳士たれ」
それはお父様がよく自分に言い聞かせるようにつぶやく言葉。
幼い頃からずっと耳にしてきた言葉だ。
お父様は素敵な英国紳士だった。私に「英国紳士たるもの……」と色々なことを教えてくれた。
どんな時も冷静で優しく紳士的……そんなお父様を尊敬し憧れていた。
たくさんいる使用人はみんな優しい人達でした。けど時折
「英国かぶれの変態野郎」「金払いだけはいいけど……」「せめて学校に……」
などと意味はわからないけどお父様の陰口を言ってる者はいましたが。
山中の大きなお屋敷と周りを囲う森の中、お父様と使用人達と私。
それだけが私の世界の全てだった。ずっとこのまま優雅で素敵な日々が続くのだと信じていた。
◇
そんな日々はお父様が血を吐いて倒れるのを合図に崩壊を始めていった。
「不治の病」「神が表れてから発見された新種の」「絶命時、近くにいた"人間にのみ"空気感染する」
使用人が連れてきたお医者様がそんなことを言ってたような気がする。
当時のショックで記憶が定かではなく、断片的にしか思い出せない。
お父様が倒れてからは全てがあっという間だった。
使用人達は我先にと屋敷を去った。中には私も一緒に行こうと誘う者もいた。
けど私は全て断った。だってお父様を一人ぼっちにさせてしまうから。
◇
使用人が皆出て行ってから数ヵ月経ったある日、
大事な話がある、とお父様に呼ばれた。
病床のお父様が取り出したのは【箱舟乗船手続書類】と書かれた封筒。
「乗船手続に必要なものは全て準備してある」
そう告げるお父様から封筒を受け取り、中身を確認する。そこには既に私の名前と【職業:英国紳士】で登録済と書かれた書類が入っていた。
これはいったいどういうことか、そう問いただすとお父様は痩せ衰えた手で私の腕を掴み、今まで見たこともない目つきで話し始めた。
「よく聞くのだキャロル!私の最期の願いだ、【英国紳士】として箱舟に乗るのだ!」
どうして、そう聞き返すとお父様は手に力を込めて言葉を返した。
「新たな世界に【英国紳士】を伝えるのだ!」
何を言ってるのか一瞬わからなかった。しかしお父様の狂気じみた言葉は止まらない。
「神が現れてから幾数年、もはや人類は滅亡に向かっている!」
「このままでは全ての文明も文化も滅びてしまう……それではいけない!」
「世界の終わりの越えるための箱舟に乗り、そして遺すのだ!【英国紳士】とは何たるかを!」
「お前は立派な英国紳士になれる!そのために今までお前には伝えてきたはずだ!英国紳士としての知識を、技術を、文化を!」
「私の命を賭した願いだ……やさしいキャロルなら聞いてくれるだろう?」
ダムが決壊したかのようにまくし立てたかと思いきや、急にいつもの優しい声で語る……
生まれて初めて直面したお父様の狂気に、私はただ頷くことしかできなかった。
◇
あれからどれだけの月日が経ったのか。
箱舟の中で私は時折悪夢を見る。
いつも同じ内容だ。
崩れ去ったお屋敷の中、一人佇む私にお父様が語り掛けてくる。
優しい声で、痩せ衰えた手足で、狂気を宿した瞳で、何度も何度も何度も……
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」……
◆
『……わかってますわ。英国紳士であればいいんでしょ』
夢から目覚め、一人でつぶやく。
……新たな世界に辿り着けばこの悪夢から解放されるのでしょうか。
箱舟出航から半年、世界の終わりは未だ越えず。
それはお父様がよく自分に言い聞かせるようにつぶやく言葉。
幼い頃からずっと耳にしてきた言葉だ。
お父様は素敵な英国紳士だった。私に「英国紳士たるもの……」と色々なことを教えてくれた。
どんな時も冷静で優しく紳士的……そんなお父様を尊敬し憧れていた。
たくさんいる使用人はみんな優しい人達でした。けど時折
「英国かぶれの変態野郎」「金払いだけはいいけど……」「せめて学校に……」
などと意味はわからないけどお父様の陰口を言ってる者はいましたが。
山中の大きなお屋敷と周りを囲う森の中、お父様と使用人達と私。
それだけが私の世界の全てだった。ずっとこのまま優雅で素敵な日々が続くのだと信じていた。
◇
そんな日々はお父様が血を吐いて倒れるのを合図に崩壊を始めていった。
「不治の病」「神が表れてから発見された新種の」「絶命時、近くにいた"人間にのみ"空気感染する」
使用人が連れてきたお医者様がそんなことを言ってたような気がする。
当時のショックで記憶が定かではなく、断片的にしか思い出せない。
お父様が倒れてからは全てがあっという間だった。
使用人達は我先にと屋敷を去った。中には私も一緒に行こうと誘う者もいた。
けど私は全て断った。だってお父様を一人ぼっちにさせてしまうから。
◇
使用人が皆出て行ってから数ヵ月経ったある日、
大事な話がある、とお父様に呼ばれた。
病床のお父様が取り出したのは【箱舟乗船手続書類】と書かれた封筒。
「乗船手続に必要なものは全て準備してある」
そう告げるお父様から封筒を受け取り、中身を確認する。そこには既に私の名前と【職業:英国紳士】で登録済と書かれた書類が入っていた。
これはいったいどういうことか、そう問いただすとお父様は痩せ衰えた手で私の腕を掴み、今まで見たこともない目つきで話し始めた。
「よく聞くのだキャロル!私の最期の願いだ、【英国紳士】として箱舟に乗るのだ!」
どうして、そう聞き返すとお父様は手に力を込めて言葉を返した。
「新たな世界に【英国紳士】を伝えるのだ!」
何を言ってるのか一瞬わからなかった。しかしお父様の狂気じみた言葉は止まらない。
「神が現れてから幾数年、もはや人類は滅亡に向かっている!」
「このままでは全ての文明も文化も滅びてしまう……それではいけない!」
「世界の終わりの越えるための箱舟に乗り、そして遺すのだ!【英国紳士】とは何たるかを!」
「お前は立派な英国紳士になれる!そのために今までお前には伝えてきたはずだ!英国紳士としての知識を、技術を、文化を!」
「私の命を賭した願いだ……やさしいキャロルなら聞いてくれるだろう?」
ダムが決壊したかのようにまくし立てたかと思いきや、急にいつもの優しい声で語る……
生まれて初めて直面したお父様の狂気に、私はただ頷くことしかできなかった。
◇
あれからどれだけの月日が経ったのか。
箱舟の中で私は時折悪夢を見る。
いつも同じ内容だ。
崩れ去ったお屋敷の中、一人佇む私にお父様が語り掛けてくる。
優しい声で、痩せ衰えた手足で、狂気を宿した瞳で、何度も何度も何度も……
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」
「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」「汝、英国紳士たれ」……
◆
『……わかってますわ。英国紳士であればいいんでしょ』
夢から目覚め、一人でつぶやく。
……新たな世界に辿り着けばこの悪夢から解放されるのでしょうか。
箱舟出航から半年、世界の終わりは未だ越えず。
このページへのコメント
作成お疲れ様です
この夢のどこが悪夢かは分からないけど大変なんだな
故人の意思を継ぐのは立派だと思うよ、本当に尊敬する
作成お疲れ様でした
英国紳士が子供に呪いを残すんじゃねぇよ…
作成お疲れ様でした!
敬愛していた親にここまでやられてしまっては……洗脳されても仕方ないですよね
ここまで行くと呪いじみてるなぁ。
作成お疲れ様でした。
やっぱりイギリスは怖い!!