『……っ!?……はぁっ、はぁっ、また、夢でしたか』

もう何百、何千と見てきて、毎回違う夢を見終える。
小さい頃の医者の話でも原因はわからなかったそうだ。だからもう、これについては諦めがついている。
それでも見ていて気分が良いものではない。

『…………寝汗で気持ち悪い、シャワー浴びてこよ』

だから、もう、一人でいるのも慣れた。



『……期待はしていませんでしたが、これはいい意味で裏切られましたね』

ここの賭博所では神様が現れてもいまだに営業を続けていたようだ。私にはとても助かる。
こういった場所は真っ先に逃げだしているところも多いため、ありがたい。
とはいえもう手持ちの金は尽きている、だからこそ。

『ねぇ、お兄さん?ほんの少しでいいからお金を恵んでいただけませんか?』
「ちょっと!?いきなりなんでしょうか?」

正直こういったやり方は恥ずかしい。今更生娘を気取るつもりはないがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
それにこうやった方が釣れやすいのだ。

『ねぇ?ほんの少しでもいいから……ね?』
「…………へぇ、姉ちゃん、金が要るんだって?なら俺たちと勝負しないか?
俺たちとなら姉ちゃんを賭けてくれるだけでいいからな!」

ほら、釣れた。秩序もある程度崩壊したことか、こういった輩も出てきてありがたい。
だからといって、賭けではわざと負けるわけにはいかない。

『んー、なら何で勝負します?そちらが賭けるのは今持ってる財布ってことで』
「そうだな……なら酒をどれだけ飲めるかで勝負しようぜ!』

私を酔わせて勝ってそのままお持ち帰りするつもりでしょうね、見たところ酒には強そうだし。
だからといって…………

『ええ、それで構いませんよ』

その勝負に負ける気は全くないけどね。



『……ふぅっ、ここまで簡単に勝つのもつまらないですね』

勝負はあっさり勝った。私がウォッカを一気飲みしたらあっちもそれをやった。
そのままスピリタスを一気飲みした。相手はそれに慄きつつも一気飲みをする。そして倒れた。
こちらは全く酔えないとはいえ酷いことをした。

『……とはいえあのまま負けるのもよさそうでしたね』

……一人でいるのには慣れた。だが、それを怖がっていないわけでも寂しがっていないわけでもない。
あのまま持ち帰られてもよかった。そして人肌を確認できた方が良かったかもしれない。


それでも私は賭博師だ。そんなわざと負けるのはプライドに触る。
だけど、だけど、それでも、
『……はぁっ、そんなことを考えても意味がありませんね……おや?』

ふと足元に紙が一枚、風に揺られて飛んできた。
内容は…………?

『…………箱舟……でしょうか?』

……何とも面白い話だ、こんなもので生き延びようなんて、なんて、なんて


『……ふふっ、これに参加して生き延びてみるのも面白そうですね』
『もちろん掛け金は私自身ってことで、ね!』

それでも今日も悪夢を見るだろう。だが、起きたときの不快感はいつもよりましだろう。

このページへのコメント

作成お疲れ様でした。
この方舟が、無人島での生活が、
少しでも苦痛を和らげる事となりますよう。

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Posted by クロマツ 2016年09月13日(火) 08:49:42 返信

悪夢、見るだけで体力失う中、よくやってんなぁお前。

作成お疲れ様でした。

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Posted by 安藤竜 2016年09月13日(火) 08:41:45 返信

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