燃える街、逃げ惑う人々、人を殺す怪物。懐かしい…数年前に帰省した時の光景だ。
たしかこの襲撃のせいで故郷の建物は殆どが焼けて、人は誰の残らなかったんだな。

思わぬ悪夢に飛び起きる。まだ太陽は昇っていない、寝直そうともしたが寝れそうな気分ではないため
しょうがなくハンモックから出て、寝なかったり、朝が早い者達と言葉を交わしながら顔を洗うために川に出かける。
夢の影響か、あの時の事を次々と思い出してしまう。
両親を安全な場所に避難させる為に、故郷に辿りついた時にはああなっていたこと。
実家に戻ったが無人だったので刀を拝借して探しに出た事、暴徒に扮した怪物を発見し、目につく怪物を皆殺しにしたこと。
親しい者に扮した怪物がその者しか知らない秘密を言ったことに動揺して死にかけたこと。
怪物は対象を喰うことで記憶を完全に模倣する性質を持っていること。
そして、ようやく父さんと母さんを見つけたが、奴らのボスに喰われていたこと。
その記憶を利用して、情に訴えて俺を殺そうとしたこと。
「たしかあの後は…」
その後が思い出せない。父さんと母さんを斬り捨てたのは確かだが、どういう経緯で斬ったのかどうやっても思い出せない。
嫌な記憶でもある為、回想を半ば強引に打ち切り、嫌な気分と神への殺意を振り切るために声を出す。
「今日も張り切って行くか!」



「何故ダ…コノ人間ノ記憶ヤ姿ハ、貴様ノ親ダロ…?何故、殺ソウトスル?」
倒れ伏し、血を吐きながら、怪物は話しかける。
話しかけられている男は自身の両親の姿をした怪物を横目にしながら眉一つ動かさず、指を組みながら何かを唱えている。
怪物はこの男の両親に化け、情を利用して優位に立っていたのに、急に男の動きが変わり、あっという間に重傷を負わせられたのだ。
「何故ダ!答エロ!」
怪物達も当然、純粋に疑問でこんなことを聞いているのではない、仲間が来るまでの時間稼ぎをしているのだ。
この怪物はボスが死ねば、その部下も死ぬという特殊な生態を持っている。
もしここで自分たちが殺されてしまえば仲間の全滅もあり得る。その為に必死になっているのだ。
「死んだ者はどこにも居らぬ。ここにいるのはそれを真似る怪物」
そう言うと、怪物の方を向いて歩み寄る。しかしその背後では既に怪物の仲間が到着し、潜んでいる。
怪物のボスも一撃を繰り出せる程度には回復し、後はタイミングを見計らって攻撃するだけ。
部下の一人が合図を出し、6体の怪物が一斉に突撃する。ボスは男が後ろを向いて迎撃するのを待っていたが
その瞬間は訪れなかった。男の左手が掻き消えると怪物達は一瞬で首を刎ねられ、力なく倒れ伏した。
「ナ、何ナノダ!貴様ハ!?」
その瞬間、ボスは気づきたくもない事に気付いてしまった。男の目は無機質でまるで機械のようだと
先程までの激情を燃やしながら、家族が助かっているのではという希望を抱いていた男とはまるで違う、別の何かだと
ボスは半ば恐慌状態になりながら問いかけるが、男はそれを無視してボスの首を刎ね飛すと、質問に答えた。
「ただの人間だ」
そう言ってから、化物達と同じように地面に倒れる。後日、只之が一人でこの惨状を作りだした、という噂が広まり
色々と面倒事に巻き込まれることになるが、それはまた別のお話。

このページへのコメント

作成お疲れ様でした!
人間として、お見事な腕前です!

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Posted by ゾディー 2016年09月14日(水) 23:03:05 返信

人間の底力ってやつも、捨てたもんじゃねぇな。俺には無理だけど。

作成お疲れ様でした。

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Posted by 安藤竜 2016年09月14日(水) 22:05:45 返信

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