「あ、あんたが悪いんだからね…!」

乾いた音を立て、少女の手からナイフが落ちる
少女は震える声で言い捨てるとその場を走り去っていった
それを追うことも咎めることもせず、フェリスはその背中を見送り

「はい、知っていますよ」

その姿が見えなくなった後、自嘲するようにひとりごちた
斬りつけられた自分の顔に触る。ぬめりとした感触がして、赤い血が手のひらにへばりついた
かなり深く斬られたようだ。しばらくは血が止まらないだろう。それに――

「この深さだと、痕が残っちゃいますね」

『女性の顔に傷をつける』
少女もその意味を理解しているからこそ、あれだけ動揺したのだろう
ありがたいことだと思う。自分を傷つけたことなんかを気にしてくれるのだから
きっと本来は他人を傷つけることのない優しい娘なのだろう。だからこそ心が痛む
あの娘にこのような行動を取らせたのは、紛れもなくフェリス自身の自業自得であるのだから







「ふぁ…懐かしい夢を見た気がします」

フェリスは大きく伸びをして草のベッドから起き上がった
傷が疼いている。こういう日は決まって疼いている傷が付けられた時の夢を見る
顔の傷は――自分の所為で母親が死んでしまった少女に付けられた傷だったか

反芻するかのように記憶を想起する

集落は自分が人間の味方をした所為で魔獣に襲われるようになった
最初は軽い気持ちだった。魔獣に襲われて困っているのだから助けてあげたいと
ただ、それだけの気持ちで近くの人間の村を襲う魔獣を倒していた
それがいつの間にか、自分の住んでいた妖精の集落が襲われるようになり――

気が付いた時には、他の妖精から石を投げつけられるようになっていた

定期的に襲ってくる魔獣。小さな集落で『ダイス』の力を使えるものも少なく被害は広がっていく
そしてその度に傷が増えていった。魔獣から受けた傷。魔獣から守れなかった仲間の遺族から受けた傷
いくつもの傷をその身に刻まれ、気が付いた時には妖精の集落には誰もいなくなってしまっていた

「そして、妖精さんも去り…集落には誰もいなくなる――ですか」

フェリスは自嘲するようにひとりごちると朝食の準備を始めた

箱舟が出航するまで残り数日――

このページへのコメント

作成お疲れ様でした。
良かれと思ってやったことが裏目に…悲しい事です。これからのフェリスさんに幸いがありますように

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Posted by レア 2016年09月15日(木) 02:14:19 返信

作成お疲れ様でした。
せめて、集落から逃げ去った妖精さんも居て、今も生き残っている事を。
生きてさえ居れば、どれほど僅かでも新たな関係の可能性がありますから。

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Posted by クロマツ 2016年09月13日(火) 08:47:43 返信

作成お疲れ様でした!
……何とも言えない結末ですね、助けたからって助けられるわけではないですからね……

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Posted by ゾディー 2016年09月13日(火) 08:22:10 返信

・・・・・・・・・・・・、ままならねぇ話だなぁ。
善意が、善意だけで返されるわけじゃあない。

作成お疲れ様でした。

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Posted by 安藤竜 2016年09月13日(火) 07:04:14 返信

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