最初は、他愛もない話だった

「他人の稲荷寿司を見つめるのは辞めようね?」

ただ、軽く話をしようと思っただけで

「あんまり食べすぎはよくないよー?」

それ以上は、何も考えてなかった

「そういうのは別に僕には必要ないからなー。どうかしたのかな?」

いつも通り、一つの事しか考えずに。考えられずに



「……はぁ……」

考えが纏まらない。頭がぐちゃぐちゃと、かき回される
少し歩けば、解消されるかと当てもなく歩いた。ただただ歩いた
それでも、解決には至らない。僕が、私が、俺が苦悩する


永く苦しむこともあるじゃろう
此れでは無いと思うこともあるじゃろう

しかし

良かった、と思う時も来るかもしれん
悪くないと思う時もあるかもしれん

何を善し、悪しち考えるかは自分次第故、答えは一つではあらんだろう


――少なくても――

―――他人が善いと思い、何かをされるというのは“何事であっても”大切に想われていることなのであろうな―――


ずっと、その言葉が、その考えが、その体験が、その想いが頭をめぐる

良かったと思う?本当に?私が問う
何事であっても?本当に?俺が問う
僕はその答えを出せない

悪くないと思う?本当に?私が問う
自分勝手だろうと?本当に?俺が問う
僕は、その答えをも出せない

私が、俺が、自分を許せるというのだろうか
俺が、私が、何をしたのかを忘れたと言わせるのか

何をさせ、何を想わせ、何を残した?
何を、何を、何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を何を……


「聞いておるかこの馬鹿者!」
「あいたっ!?」

突然叩かれ、何事かと振り向けば

「はぁ…まったく、何故こんなところにおるのかのう…」

ランが、ため息をついてそこにいた
気付けば噴水のある花畑まで来ていてしまっていた

「い、いやちょっと考え事をね?」
「…なら一声掛けるものじゃろうが…」
「あー…もしかして探してた?」
「置いて行くのも気が引けるからのう…」

様子を見ると少し心配させてしまったようだ…

「ご、ごめんねー?私の為に…」
「…まあ良いがのう…?」

…ん?あれ?えーっと…

「ちょ、ちょっとまってね…?」
「……うむ……?」

落ち着こう?落ち着け?落ち着いて?
自分は誰だ?頭がぐるぐるする、思考が混ざる…

「……大丈夫か…?」
「…え?あ、ああ、うん…」

駄目だ、駄目だダメだ…自分というものがドレだか、分からなくなる
自分のキモチというものが、自分のオモイというものが分からなくなる

「…あー、ラン、少しだけ、いいかな?少しだけでいいんだ…」
「なんじゃ?言ってみると良い」
「ん…その、名前、呼んでほしいなって」
「…なんじゃ、それだけか…うむ、ミナト…これでよいか?」
                  季弘      フジキド     ミナト
…そう、そうだ。僕は僕で、私でもなく、俺でもなく、僕なんだ
この身は僕の物で、この心は変わらずにあり、この想いは偽り無く僕の物なのだから

「…うん、ありがとう、ラン。もう大丈夫だよ」
「そうか…しかし、名は捨てるだの言っておらんかったかのう?」

意地悪そうに彼女がからかう

「あ、あはは…まあ僕は僕だしそういうのは重要じゃないんじゃないかな!」
「まあ、それでいいなら儂はいいがのう?」

ほれ、では帰るぞ。と彼女は手を差し出した
じゃ、変えろっか。と僕は彼女の手を握る

その手は暖かくて、優しい手だった。とても安心できる、優しい手だった
…ああ、やはり僕は彼女が好きなんだろう。この欠けた心は、やはり彼女が好きなのだろう
この手を放したくないと思う。いつまでも一緒に居たいと思う。どの刻も共に在りたいと思う
この気持ちが世では善いものなのか、悪いものなのかは僕にはわからないけれども…
この想いに嘘も、偽りも無く…誰でもない、僕の物なのだと胸を張れるから
いつかは、彼女に伝えようと思う
僕は、ランが好きなんだって

「…どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ、ラン」

もし、彼女が僕を嫌いだったらどうしよう?
もし、僕の…僕達の事を伝えて、嫌いになったらどうしよう?
…拒絶されてしまったら、そう考えると…そう、怖い、と思う
だけど、僕の事は隠したくないから…ちゃんと伝えようと思うんだ


その日、僕はその答えを僕に出したんだ


自問自答のリインカネーション
とある日の後日談

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