悪いが枕詞を省いて自己紹介から入らせてもらおう、私だ
これだけで分かるやつは居ないだろうから愚かなお前たちの為に仕方なく言ってやると先生だ
まあ分からないならそれでいい、お前達に当てた発言でなく独白なのだからな、是非もない



『私がこいつの…いやこれの親代わりになれだと?
 冗談は程々にしろ貴様、これは私の手に余るどころの騒ぎじゃないぞ、どうしたらこんな奴が生まれるんだ?』

控えめに言って化け物な赤子を見ながら熟考する
なるほど神造巫女か、悪意無く生まれたのにここまで悍ましいとは逆に奇跡だ

『分かったこの子供は私が責任をもって育てよう、分かったらとっとと去れ、私は五月蠅いのが嫌いだ』

なぜ育てようと思ったのかは今でも分からない、多分永遠に分かることはないだろう

『お前の名前は■■だ…偽名は片羽でいいだろう
 お前につけた名前がどんな意味を持つかは私にも分からん、それを決めるのは貴様だ』



『食事を作ってきたぞ、言ったところで詮無きことだとは思うがな』

帰って来る言葉はない、感情や意思と言ったものがどこにも見当たらないからな
生存本能すらなく一応体の反射はあるがこれははたして生きていると言えるのだろうか

『子育てがここまで難しいとはな、私の手に余り過ぎて困る』

分類上人間に分けられるそれを今日も世話する。
全く持って進歩があるのか分からないが……まあいいだろう



「先生!私この本を読み終わったよ!」

『目上の者には敬語を使え、育てているのは誰だと思っているんだね、君』

便宜上自我と言えるものが生まれたようで何よりだ、逆に言えば地獄の境遇にしてしまったということでもあるが…
歪も歪とは言え子供が成長して喜ばないほど薄情ではないからね、今度はファンタジーの本でも与えてやるか



『よろしく柏葉見兎、私は先生だ、無礼な口はきくなよ?』

『分かりました!ちゃんということを聞きます!』

『よしそれならいい、いつか私の為に家事ができるよう精進してくれ』

これは何とも面白いことになった、よりにもよってこの神社に、あいつの幼馴染にこんな名前の奴が来るとは
しかし家事をやっと押し付けられるが手のかかる子供がまた一人か、保護者も楽じゃないな 



「なんで今までこんなことを……過去の自分を殴りたい……」

『私は昔からおかしいって言ってたじゃん!男としての自覚持つの遅すぎるって!』

『環境が環境だからな、まあ愚者の一言に尽きるが
 それにしても無様だな片羽!自らの愚かさを思い知ったか若造!』

『うっわ大人げない……』

実に今更なことで悩みだしたが本来こうあるのが正しいんだろうな
何を思って男として生きる様になったかは分からないがいい変化だと信じてみよう



「先生、魔術と戦術を教えてくださいお願いします」

『死ぬ気で頑張りたまえ、私はお前の育成を死んでも頑張らないがな!』

「それでも大人かよ!珍しく殊勝に頼んでるっていうのにさ」

『誰が何と言おうと私は菓子と茶を摂取しながらぐだぐだ本を読む!
 絶対働かないし絶対にこの椅子から離れないぞ!』

こうは言ったがアドバイス程度はしてやろうと思う
あいつなりに何かをしようという自我があるのは素晴らしいことだからな
自主性というのは実に人間的な知能だ、知性を見守るのはやぶさかではない



思考を止めてゆっくりと紅茶を飲む、久しぶりに私自身が淹れたがやはり美味いな
手元の本のページはまだ半分ほど残っていた、名残惜しいが時間なら仕方ない

『実に無礼な男だな、レディーのいる部屋にはノックをして入ってくるものだよ、君』

さて、突然だがここで話を締めくくらせてもらおう
願わくばあの二人がまともな最期を迎えられますようにだ

このページへのコメント

微笑ましく、温かい日々ですね。
先生さんの終わりも又、己にとっての納得と共にあると良いのですが。

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Posted by クロマツ 2016年12月28日(水) 23:11:04 返信

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