学校の閉鎖が決まり、他の見習い神官と同様私にも辞令が下された。
行き先は前線から離れたとある農村の教会だという。
この年になっても未だに異能も顕れず、貧弱な肉体しか持たないこの身だが、出来ることはあると続けてきた努力の成果をここで発揮しようと願い私は学び舎を後にした。

村は嘘のように平和であり、神々との戦いなど遠い世界のように思えた。
私は満ち足りていたのだと思う。
相変わらず貧弱だったが、村の人々は私をやさしくうけいれてくれた。
教会の手入れをする傍ら農作業を手伝い、時折出る病人や怪我人を治療する日々を過ごしていた。






ある夜のことだった。
全身の痛みと炎の熱さで目が覚めた。瓦礫に埋まりまともに動けない身体に鞭打ち周囲を見た。見覚えのある建物は全て瓦礫の山へと姿を変え炎を纏い燃えていた。
…視界の端を何か白いものが空へと飛び立ったように感じた。
身体から生命が流れ出しているのを感じる。自分のどこか冷静な部分がこれは助からないと告げていた。何もできないことを悔やみつつ私は死への眠りに身を委ねた。

…温かい力が私を包むのを感じる。身体にあいた穴が塞がり徐々に生命が戻ってくるのを感じる。
助けが来たのだと思った。安堵から笑みがこぼれた。
…周囲は未だ絶望に包まれていた、助けを求める声や傷みに呻く声が満ち、肉が焦げる匂いが漂っていた…
なぜだと思った。助けが来たのではないのかなぜ皆を助けてくれないのか!
気がついた…助けなど来ていないこれは私の異能(ちから)なのだ。
ちがう、ちがう、ちがう
私なんかどうでもいいのだ、なぜ、なぜ!ちからがあるのに、助けられるのに、なぜ私だけを癒すのだ。
助けを求める声がだんだん小さくなり消えていく…
いやだ、いやだ、いやだ 死なないで…

私の力は最後まで私だけを癒し続けていた。



「あれが箱舟ですか、もう少しマシな形にできなかったのでしょうか」
視界の先に妙な形の巨大な船が停泊しているのが見える
その乗船口へと歩を進めながら自らに課した決意を噛み締める。
「今度こそ私は助けてみせる。」
いや、助けなければならない。あの日と違い異能は他人にも使えるようになったのだ。
なによりも、この胸には未だにあの日助けなかった(助けたかった)人々の声の残響が私に贖罪を求めてきているのだから…。

このページへのコメント

作成お疲れ様
……うん、私は私として貴方と向き合うだけですね

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Posted by ホルス 2016年09月19日(月) 19:01:54 返信

作成お疲れ様でした。
異能にも、一長一短か。

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Posted by 安藤竜 2016年09月18日(日) 16:28:22 返信

作成お疲れ様でした!
自分だけ生き残る、しかも助けを求められながらとはきついものがありますからね…

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Posted by ゾディー 2016年09月18日(日) 15:02:31 返信

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