【R-18】シュテルとシュルクは遭難した島で貴方たちと生活するようです【安価・あんこ】

これはありふれて悲劇である。


"ヒーローになるんだ！！"
"えー？■■■にはむりなのよー"
"むむむ…なる！ぜったいになーる！このあいだはしゅんしんのとっくんでほめられたし！"
"ちょくぜんまでおこられてなきそうになってたのよー"
"うぎぎ…おれだって…おれだってだんちょーやおやじみたいなりっぱな■■■■■になるんだ！！"
"はいはいなのよー。それより早く顔洗ってご飯に行くことのよー"
"わわっ！引っ張るなって！"




打ち合う、鋼の音を鳴り響かせるのは一人の人間と■■■■■■。
既にいくつ刃を交わしたかも覚えていない、アレが本格的に動けば更なる悲劇が出てしまう。独善等知ったことか、自分のような人間を見るのはもう嫌だ。
戦うのだ、戦って守るしかない。
今の彼にあるのはーー




"はぁ…まさかこんな早く瞬身と絶空を修得されるとは…"
"ふっふーん！どうだ！俺だって中々やるだろ？親父にはもう負けねーぞ！"
'"あぁん！？テメェ！やるか！？やんのか！？叩き潰してやんよぉ！！"
"あぁ！？やってやるよ！ロートルは下がって茶でも飲んでやがれ！"
"ぷっちーん！こんのドラ息子ぉ！地面に這いつくばらせてやるよぉ！"
"またケンカしてるのー…今日で３回目なのー…"




尖兵を一太刀にて斬って、斬って、斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って
狙うは敵の首魁、雑魚に用はない。
首は目前、尖兵等に構っている暇はない、早くその首を寄越せ。
許さない…お前だけは…
今の彼にあるのはーー




"■■■、よくやってくれた。今回の功労者は間違いなくお前だ。"
"…！あ、ありがとうございます！"
"ふふ…そうかしこまるな。アルバの奴はまだまだひよっこの甘えん坊だ、と言っていたな。"
"あ、あんのクソ親父ぃ…"
"アレはアレなりにお前を認めているよ。絶空の皆伝を渡した時なぞ、俺の部屋で一日中呑みながら自慢していたぞ。"
"……団長やあのクソ親父に追い付くためにはまだまだ足りません…もっと精進します！"
"うむ、次の戦は歴代でも最も苦難が待ち受けるであろう。相手は神と冠する者…長くなるかもしれんが留守は任せたぞ。"
"ッハ！"




一面の焼け野はら、天から降ってきた突然の光。一人一人狙い打つように放たれて行く。
一人目はカイロス、先日漸く幼馴染みと籍を入れた。子供も出来たらしい。蒸発して消えた。
二人目はアイリーン、酒場に向かって今日も客を魅了させるダンスを見せてくれるのだ。蒸発して消えた。
三人目はザジ、カイロスの嫁さん、皆で御祝いしたとき、感極まって泣いていた。ずっと好きだったんだもの、良かった。お腹を大事に擦りながら食材の買い出しに行く。蒸発して消えた。
四人目、蒸発して消えた。
五人目、蒸発して消えた。
六人目、七人目、八人目………………………………



"逃げろ■■■！！早く！どこでもいい！とにかくここから離れろ！足掻いてでも生きるんだ！"
親父は伸ばした右手を残して蒸発して消えた。
"………………■■■、お前が…お前が我等の最後の希望だ…逃げろ。そして自分の思ったように生きるのだ。俺のような愚か者にはなるなよ？"
団長は椅子に座って瞑目する。蒸発して消えた。
"……………………………………"
自分、せめて●●●だけでも守らなければ。光が落ちる。蒸発してきえ…

トンッ！

"皆を助けるヒーローになるんでしょ？わたしのヒーロー…"
最後、笑顔の●●●が蒸発して消えた。




血の海、残るは敵の首魁だけ。
自らが持ち帰ってしまった本拠地の情報が村を滅ぼした。
ケジメをつけなければ、これ以上この存在を許してはいけない。
許されない、許してはいけない、許して欲しい。
残されたのはーー



ーー身を焦がす灼熱の正義。
ーー全てを棄ててなお消えない復讐心
ーー自らを突き刺す慚愧の刃




右腕を飛ばした。
自分の持ちうる全てを使い、死力を尽くした結果。
この後死ぬのだろう、もう片方の手で首を掴まれる。
決して自分は許されないのだろう。
半端な正義感、未練しかなかった復讐心、赦しを請う事しか考えてなかった慚愧。
足りなかった。何もかもが…
救いたかった、村を…
なりたかった、全てを救うヒーローに…



暗転する。
もう、何も感じる事もない。







「………ﾍﾟﾝｷﾞﾝｶﾞｳﾁｱｹﾞﾗﾚﾃﾙｿﾞｰ!」

「………………ここは………どこッス？自分は一体…」


これはありふれた悲劇である。
一人の少年が何も守ることも正義を成すことも出来なかったお話。