最終更新:ID:ClMXjUDBbA 2016年09月16日(金) 00:06:22履歴
「―――お嬢ちゃん、そんなところで何をしているんだい?」
「………?…ボクが、みえるの……?」
…少女の目の前に立っていたのは、仮面で顔を、マントで全身を隠した青年だった。
「ん?もしかしてお嬢ちゃん、かくれんぼかい?こんな時間まで遊んでないで、早く帰った方がいいよ。家はどこかな?」
「……?………かえる?……かえるって…どこに…?」
「…んー?…えーっと、そうだな…お嬢ちゃんはどこから来たんだい?」
…青年は会話に違和感を覚えた。…確かめなければ…青年はしゃがみ、少女と目線を合わせ…生気の無い、虚ろな目を見る。
「……わからない…ボクはどこからきたんだろう…どこに、いるんだろう……」
「…ん、自分の名前、両親の名前、自分の歳、自分の異能…どれか一つでもわかるかい?」
「……しらない。どれも、ひとつも……」
「……そっかー、わからないかー……」
青年は頭を抱える。…無理もない。彼は多くの『仕事』を終え、久しぶりに拠点へ帰ろうとしていた矢先に少女を見つけたのだ。
只の迷子ならいい。ただ、役所なりなんなりに預ければいいだけだ。
…しかしこの少女は何も覚えていないときた…
「(…てっきり虐待か何かで家出した子供かと思ったが…これは明らかに厄ネタだぁ…!)」
隠密系の異能が発動している。衣服はボロボロ。虚ろな目…ここまで見て、彼は家出だと思った訳だ。
ところが、実際は記憶喪失か元からなのか…もしかしたら虐待のショックで記憶喪失に?
…そう考えていた彼は、一つのことに気づく。
「(…どこにも、怪我も何もない?)」
…明らかに、きれいな肌だった。無論、少女は水浴びも何もしていないので、肌は汚れてはいるが…
…どこにも、怪我も傷もなく、乱暴された形跡が全くないのだ。
「…お嬢ちゃん、俺以外と話したことってある?」
「……ない…だれも、ボクをみてくれないから……」
再び青年は頭を抱える。…異能は隠密系。……誰も見ていない。………おそらくは、自覚なし。
「(…ホントは関わりたくないんだけどなぁ…けど…)」
…何も見ていない、少女の眼。それは、生きる意味などどこにも見出せず、生きているのかもわからない…そんな眼だった。
「…嫌だね、やっぱ。こういう眼は嫌だ。…また怒られるかな…けど、あの日に決めたから。」
そう言い、青年は仮面を外す。…仮面の下には……
―――紅く光る左の魔眼が、そこにあった―――
「…外傷、無し。…改造の形跡、無し。…記憶の改竄、無し。…記憶…変なところはないね…。
……異能…この感じは『影の加護』…かな…。………状態は…やっぱりオンのままかぁ…。」
青年は少女の身体を、じっくりと見る。…どこも見落とさないよう、今の状態を全て把握するために。
「…お嬢ちゃん、誰かに見ていてもらいたいかい?…もしかしたら、それは不幸を招くかもしれないけど…」
…青年は聞く。おそらく少女はこの異能の効果で、今まで生きていたのだろう。
…異能がオフになれば、少女は生きて行けるのか、それはわからない。
…青年は今の少女の眼が嫌だ。…昔に見た以来、あの人の眼を見た以来、どうしても嫌なのだ。
…しかし、これは少女の問題だ。少女の人生は少女の為にある。…ならば、これからどうするかは少女の決めることだろう。
…青年は、ただ少女の言葉を待つ。
「……みて、もらいたい。…ボクはここにいるって、きづいてもらいたい……ボクは、ここにいるってことを………」
…そう、少女は答えた。
「…そっか。…じゃ、俺が叶えてあげるよ。…見通せ、『ウジャト』。…異能、書き換え…状態、オフ…」
青年の左眼が一瞬、より一層紅く光り…その後、右眼と同じ褐色に変わった。
それと同時に、彼女を隠していた影が消える。
「…っ…ハァ…ハァ……うん、もう大丈夫だよ。もう、君を隠すものはない。君は、ここにいるよ。」
「…ほんとう?……みて、もらえる?」
「うん、本当だよ。…これからは、君が好きなように生きて、誰かに見ていてもらうといい。」
「……だれに、みてもらえばいいんだろう……」
「…君がよければだけどね?来るかい?俺たちのところに。」
…あまり関わりたくはなかった。が、ここまで関われば、もうあまり大差ないだろう…
この青年は、いつだってそうなのだから。
「…いいの?ボクが、ついていって…」
「ん、いいんだよ。俺もここまで手を出したんだしね。…来る?来ない?」
「…いく。ぼくは、いっしょにいたい…」
「…そっか。じゃあ行こうか。…その恰好じゃちょっと寒いかな?…ちょっと血なまぐさいかもしれないけど、我慢してね。」
そう言って、青年は少女にマントを着させる。
「…じゃあ、行こう。…大丈夫だよ。みんな、君のことを見てくれる。」
―――こうして、青年は少女の手を引き、帰路についた―――
「ただいまー!ほらほら、俺、頭領が帰ったぞー!」
―――人里離れた、とある場所に、青年と少女は着いた―――
「…ハァ、お主はいつも元気じゃなぁ…」
二人が最初に出会ったのは、狐の女性だった。
「お、ただいまー。帰って一番最初に会うのが姐御なんてめずら…ごふぅ!」
見事に腹パンが決まる。青年が痛みで唸っているが、狐の女性は気にせず話す。
「…ったく、儂のことはお嬢、せめて姐さんくらいで呼べと言っておろうが。姐御だと少し年寄り臭い。」
「…で、でも実際歳は…ごふぅっ!…そ、それに姐さんも変わらない気が…ごふぅっっ!」
「女性に歳の話をするなとも言っておろうが…姐さんならなんとなくセーフじゃ。…で、お主、また拾ってきたんじゃな…」
狐の女性は少女を見て、そう話す。
「…どーせまた関わったから連れてこようとかいつものパターンなんじゃろ…」
「…ナンノコトカナー。ワカラナイヨー。」
「…しかもお主、『仕事』とは別に魔眼までつかったな?」
「…まー必要だったし?仕方ないよね?」
「…ハァ、書き換えまでしたみたいじゃな…さてはその小娘関係じゃな?」
「…ま、そういうこと。この子、体が汚れてるし服もまともなの着てないから…お嬢、お願いできる?」
「ふむ…『仕事』終わりのマントなぞ着せおって…相分かった。…ほれ小娘、ゆくぞ。」
狐の女性は少女の手を引き、浴場へとつれて行く。
「…ほれ、服を脱いで…まずはシャワーで流してから体を洗うのじゃ。…ん、洗い方がわからない?…仕方ないのう…」
「ゴシゴシ…ん、流すぞ…よし、湯船に入るのじゃ。…コラ、しっかり肩まで浸かるように。」
「…ふー、いい湯じゃのう…昼間っから湯に入れるのは役得じゃな…ん、小娘、どうかしたか?」
「…ボクを、みてくれてるんだなって…そうおもって…」
「…ん、小娘。お主がどういう経歴かは知らんが…ここの面々は誰一人、お主を無視はせんよ。」
そう言って、狐の女性は少女の頭を撫でる。
「…ん、のぼせる前に上がるとするかのう…ほれ、小娘もじゃ。」
「…あやつめ、儂らが湯船に入っとる間に着替えを用意したみたいじゃな…もし覗いてたら殴っておくかのう…」
「ほれ、ばんざーいじゃ。…ヨシヨシ、パンツ、上着、ズボンと…サイズもピッタリじゃな…あの変態め…」
「…ん、着替え終わったのう。とりあえず大広間にゆくぞ。あやつの事じゃ、ちょうど食事を作ってる所じゃろう。」
そうして二人は大広間へ移動する。その途中で二人は様々な人と会う。
「あ、姐さんこんにちはー。…また頭領が拾ってきたんですか?うん、これからよろしくお願いしますね!」
「おう、お嬢!今日もきれいだな!…おう、また頭領が拾ってきたのか…ま、よろしくな!」
「…んー、おはよー…ねむねむ…あー、また頭領が連れてきたのかー……まあ頭領だしー…んー、よろしくー…」
「む、お嬢様、こんにちは。…そちらの方はまた頭領が連れてきたんですね。お嬢さん、こんにちは。」
「…さて、大広間に着いたのう。…ほれ、誰も無視せんかったじゃろう?」
「…うん、みんなボクをみてくれるんだね…」
「ま、ここの連中はそういうやつらばっかりじゃからな。…ほれ、入るぞ。」
二人が大広間に入ると…すでに料理が広げられていた。
「おうお嬢、お疲れ様。料理はできたけどまだみんな来てないからちょっと待っててねー。」
「…服とか用意されてたんじゃが…小僧、覗いておらぬよな?」
「まって!頭領信じて!俺そんなことしてお嬢に殴られたくない!」
「…正直に言えば久しぶりに尻尾をもふもふすることを許可しようと思ったのじゃが…」
「え!マジで!実は頭領お嬢が湯船に入るところ覗きまし…ごふぅ!」
「…ったく、この変態め…儂と小娘の裸体なんてみて何が楽しいかのう…」
「お嬢の裸覗けて…我が人生に一片の悔いなし…ごふぅっ!」
「ほれ、冗談言ってないでさっさと起きる。みんな集まってきてるぞ。」
「また頭領と姐さんが漫才してる…」
「だって頭領だぜ?いつものことだし」
「んー…いつも元気だよねー…ねむねむ…」
「…ま、まあそこがお二人の良いところですよ?…多分」
「頭領への評価がひどい…頭領泣いちゃう…」
「日常の姿がアレじゃからなぁ…」
そんな話をしながら、多くの人が集まっていく。
「…ん、これで全員かな。へい注目!実は頭領、なんとまた一人拾ってきちゃったぜ!」
「「「「知ってた、いつものことか」」」」
「やだ、みんな頭領の事理解しすぎ…」
「むしろ長年一緒にいるのにどうすれば理解できないのかわからないんじゃが…
それで、その少女の名前の名前は?儂もまだ聞いてないんじゃが…?」
「んー、名前覚えてないみたいなんだよね。だから本名じゃないけど、コードネームは決めたよ。」
青年は少女と向き合い、彼女に告げる。
「…君の名前は『影楼』。君の異能から考えた名前だよ。…よかったら、受け取ってくれると嬉しい。」
「…カゲロウ…それが、ボクのなまえなの…?」
「うん、これからはそう名乗るといいよ。それが、君の名前だ。」
「影楼ですか。改めて、よろしくお願いしますね。」
「おう、影楼ちゃん、よろしくな!」
「んー…名前決まったんだー…影楼とか頭領も捻ったねー…まあよろしくー…」
「はい、影楼様ですね。これからよろしくお願い致します。」
…少女に…影楼に、多くの祝福の声がかけられる。
「………みんな、ありがとう………」
…影楼の眼から、涙が零れ落ちる…
「…え、頭領なんかやっちゃった?影楼って名前はマズかった!?ちょ、ちょっと待って、今新しく考えるから!」
「戯けが、そういうことじゃないじゃろう…ほれ影楼、ハンカチじゃ。」
「……え?……あれ、なんでだろう……へんだね……とまらない、ね……」
「…ヨシヨシ。…影楼、お主はここにいていいんじゃよ?お主の過去に、何があったのかはわからんが…
そんなもの、ここでは関係ないぞ。影楼は影楼じゃ。…だから、その涙を存分に流すといい。…ここには、みんないるからのう。」
「……うん…なんでながしてるのかわからないけど…そうするね……」
「おう、いい子じゃのう。…どこかの誰かさんとは大違いじゃ。」
「…やめやめ!頭領しんみりとした感じ嫌いだから!もっと楽しく、騒いでいこうよ!」
「…ハァ、誤魔化しおって…少しは成長してるかと思ったら小僧は小僧じゃったか…」
「お嬢ひどくない?でもさ、折角ここに来たんだから、もっと明るくいこうよ!ね、みんな!
…そうだ、まだ言ってなかったことがあったね、影楼。…ほら、みんなも一緒に!」
―――「「「「「「『影』へ、ようこそ!影楼!」」」」」」―――
―――これは、彼女が影楼となり…光を得るまでの物語。彼女が『箱舟』に乗るのは…まだ、もう少し先の物語である……
「………?…ボクが、みえるの……?」
…少女の目の前に立っていたのは、仮面で顔を、マントで全身を隠した青年だった。
「ん?もしかしてお嬢ちゃん、かくれんぼかい?こんな時間まで遊んでないで、早く帰った方がいいよ。家はどこかな?」
「……?………かえる?……かえるって…どこに…?」
「…んー?…えーっと、そうだな…お嬢ちゃんはどこから来たんだい?」
…青年は会話に違和感を覚えた。…確かめなければ…青年はしゃがみ、少女と目線を合わせ…生気の無い、虚ろな目を見る。
「……わからない…ボクはどこからきたんだろう…どこに、いるんだろう……」
「…ん、自分の名前、両親の名前、自分の歳、自分の異能…どれか一つでもわかるかい?」
「……しらない。どれも、ひとつも……」
「……そっかー、わからないかー……」
青年は頭を抱える。…無理もない。彼は多くの『仕事』を終え、久しぶりに拠点へ帰ろうとしていた矢先に少女を見つけたのだ。
只の迷子ならいい。ただ、役所なりなんなりに預ければいいだけだ。
…しかしこの少女は何も覚えていないときた…
「(…てっきり虐待か何かで家出した子供かと思ったが…これは明らかに厄ネタだぁ…!)」
隠密系の異能が発動している。衣服はボロボロ。虚ろな目…ここまで見て、彼は家出だと思った訳だ。
ところが、実際は記憶喪失か元からなのか…もしかしたら虐待のショックで記憶喪失に?
…そう考えていた彼は、一つのことに気づく。
「(…どこにも、怪我も何もない?)」
…明らかに、きれいな肌だった。無論、少女は水浴びも何もしていないので、肌は汚れてはいるが…
…どこにも、怪我も傷もなく、乱暴された形跡が全くないのだ。
「…お嬢ちゃん、俺以外と話したことってある?」
「……ない…だれも、ボクをみてくれないから……」
再び青年は頭を抱える。…異能は隠密系。……誰も見ていない。………おそらくは、自覚なし。
「(…ホントは関わりたくないんだけどなぁ…けど…)」
…何も見ていない、少女の眼。それは、生きる意味などどこにも見出せず、生きているのかもわからない…そんな眼だった。
「…嫌だね、やっぱ。こういう眼は嫌だ。…また怒られるかな…けど、あの日に決めたから。」
そう言い、青年は仮面を外す。…仮面の下には……
―――紅く光る左の魔眼が、そこにあった―――
「…外傷、無し。…改造の形跡、無し。…記憶の改竄、無し。…記憶…変なところはないね…。
……異能…この感じは『影の加護』…かな…。………状態は…やっぱりオンのままかぁ…。」
青年は少女の身体を、じっくりと見る。…どこも見落とさないよう、今の状態を全て把握するために。
「…お嬢ちゃん、誰かに見ていてもらいたいかい?…もしかしたら、それは不幸を招くかもしれないけど…」
…青年は聞く。おそらく少女はこの異能の効果で、今まで生きていたのだろう。
…異能がオフになれば、少女は生きて行けるのか、それはわからない。
…青年は今の少女の眼が嫌だ。…昔に見た以来、あの人の眼を見た以来、どうしても嫌なのだ。
…しかし、これは少女の問題だ。少女の人生は少女の為にある。…ならば、これからどうするかは少女の決めることだろう。
…青年は、ただ少女の言葉を待つ。
「……みて、もらいたい。…ボクはここにいるって、きづいてもらいたい……ボクは、ここにいるってことを………」
…そう、少女は答えた。
「…そっか。…じゃ、俺が叶えてあげるよ。…見通せ、『ウジャト』。…異能、書き換え…状態、オフ…」
青年の左眼が一瞬、より一層紅く光り…その後、右眼と同じ褐色に変わった。
それと同時に、彼女を隠していた影が消える。
「…っ…ハァ…ハァ……うん、もう大丈夫だよ。もう、君を隠すものはない。君は、ここにいるよ。」
「…ほんとう?……みて、もらえる?」
「うん、本当だよ。…これからは、君が好きなように生きて、誰かに見ていてもらうといい。」
「……だれに、みてもらえばいいんだろう……」
「…君がよければだけどね?来るかい?俺たちのところに。」
…あまり関わりたくはなかった。が、ここまで関われば、もうあまり大差ないだろう…
この青年は、いつだってそうなのだから。
「…いいの?ボクが、ついていって…」
「ん、いいんだよ。俺もここまで手を出したんだしね。…来る?来ない?」
「…いく。ぼくは、いっしょにいたい…」
「…そっか。じゃあ行こうか。…その恰好じゃちょっと寒いかな?…ちょっと血なまぐさいかもしれないけど、我慢してね。」
そう言って、青年は少女にマントを着させる。
「…じゃあ、行こう。…大丈夫だよ。みんな、君のことを見てくれる。」
―――こうして、青年は少女の手を引き、帰路についた―――
「ただいまー!ほらほら、俺、頭領が帰ったぞー!」
―――人里離れた、とある場所に、青年と少女は着いた―――
「…ハァ、お主はいつも元気じゃなぁ…」
二人が最初に出会ったのは、狐の女性だった。
「お、ただいまー。帰って一番最初に会うのが姐御なんてめずら…ごふぅ!」
見事に腹パンが決まる。青年が痛みで唸っているが、狐の女性は気にせず話す。
「…ったく、儂のことはお嬢、せめて姐さんくらいで呼べと言っておろうが。姐御だと少し年寄り臭い。」
「…で、でも実際歳は…ごふぅっ!…そ、それに姐さんも変わらない気が…ごふぅっっ!」
「女性に歳の話をするなとも言っておろうが…姐さんならなんとなくセーフじゃ。…で、お主、また拾ってきたんじゃな…」
狐の女性は少女を見て、そう話す。
「…どーせまた関わったから連れてこようとかいつものパターンなんじゃろ…」
「…ナンノコトカナー。ワカラナイヨー。」
「…しかもお主、『仕事』とは別に魔眼までつかったな?」
「…まー必要だったし?仕方ないよね?」
「…ハァ、書き換えまでしたみたいじゃな…さてはその小娘関係じゃな?」
「…ま、そういうこと。この子、体が汚れてるし服もまともなの着てないから…お嬢、お願いできる?」
「ふむ…『仕事』終わりのマントなぞ着せおって…相分かった。…ほれ小娘、ゆくぞ。」
狐の女性は少女の手を引き、浴場へとつれて行く。
「…ほれ、服を脱いで…まずはシャワーで流してから体を洗うのじゃ。…ん、洗い方がわからない?…仕方ないのう…」
「ゴシゴシ…ん、流すぞ…よし、湯船に入るのじゃ。…コラ、しっかり肩まで浸かるように。」
「…ふー、いい湯じゃのう…昼間っから湯に入れるのは役得じゃな…ん、小娘、どうかしたか?」
「…ボクを、みてくれてるんだなって…そうおもって…」
「…ん、小娘。お主がどういう経歴かは知らんが…ここの面々は誰一人、お主を無視はせんよ。」
そう言って、狐の女性は少女の頭を撫でる。
「…ん、のぼせる前に上がるとするかのう…ほれ、小娘もじゃ。」
「…あやつめ、儂らが湯船に入っとる間に着替えを用意したみたいじゃな…もし覗いてたら殴っておくかのう…」
「ほれ、ばんざーいじゃ。…ヨシヨシ、パンツ、上着、ズボンと…サイズもピッタリじゃな…あの変態め…」
「…ん、着替え終わったのう。とりあえず大広間にゆくぞ。あやつの事じゃ、ちょうど食事を作ってる所じゃろう。」
そうして二人は大広間へ移動する。その途中で二人は様々な人と会う。
「あ、姐さんこんにちはー。…また頭領が拾ってきたんですか?うん、これからよろしくお願いしますね!」
「おう、お嬢!今日もきれいだな!…おう、また頭領が拾ってきたのか…ま、よろしくな!」
「…んー、おはよー…ねむねむ…あー、また頭領が連れてきたのかー……まあ頭領だしー…んー、よろしくー…」
「む、お嬢様、こんにちは。…そちらの方はまた頭領が連れてきたんですね。お嬢さん、こんにちは。」
「…さて、大広間に着いたのう。…ほれ、誰も無視せんかったじゃろう?」
「…うん、みんなボクをみてくれるんだね…」
「ま、ここの連中はそういうやつらばっかりじゃからな。…ほれ、入るぞ。」
二人が大広間に入ると…すでに料理が広げられていた。
「おうお嬢、お疲れ様。料理はできたけどまだみんな来てないからちょっと待っててねー。」
「…服とか用意されてたんじゃが…小僧、覗いておらぬよな?」
「まって!頭領信じて!俺そんなことしてお嬢に殴られたくない!」
「…正直に言えば久しぶりに尻尾をもふもふすることを許可しようと思ったのじゃが…」
「え!マジで!実は頭領お嬢が湯船に入るところ覗きまし…ごふぅ!」
「…ったく、この変態め…儂と小娘の裸体なんてみて何が楽しいかのう…」
「お嬢の裸覗けて…我が人生に一片の悔いなし…ごふぅっ!」
「ほれ、冗談言ってないでさっさと起きる。みんな集まってきてるぞ。」
「また頭領と姐さんが漫才してる…」
「だって頭領だぜ?いつものことだし」
「んー…いつも元気だよねー…ねむねむ…」
「…ま、まあそこがお二人の良いところですよ?…多分」
「頭領への評価がひどい…頭領泣いちゃう…」
「日常の姿がアレじゃからなぁ…」
そんな話をしながら、多くの人が集まっていく。
「…ん、これで全員かな。へい注目!実は頭領、なんとまた一人拾ってきちゃったぜ!」
「「「「知ってた、いつものことか」」」」
「やだ、みんな頭領の事理解しすぎ…」
「むしろ長年一緒にいるのにどうすれば理解できないのかわからないんじゃが…
それで、その少女の名前の名前は?儂もまだ聞いてないんじゃが…?」
「んー、名前覚えてないみたいなんだよね。だから本名じゃないけど、コードネームは決めたよ。」
青年は少女と向き合い、彼女に告げる。
「…君の名前は『影楼』。君の異能から考えた名前だよ。…よかったら、受け取ってくれると嬉しい。」
「…カゲロウ…それが、ボクのなまえなの…?」
「うん、これからはそう名乗るといいよ。それが、君の名前だ。」
「影楼ですか。改めて、よろしくお願いしますね。」
「おう、影楼ちゃん、よろしくな!」
「んー…名前決まったんだー…影楼とか頭領も捻ったねー…まあよろしくー…」
「はい、影楼様ですね。これからよろしくお願い致します。」
…少女に…影楼に、多くの祝福の声がかけられる。
「………みんな、ありがとう………」
…影楼の眼から、涙が零れ落ちる…
「…え、頭領なんかやっちゃった?影楼って名前はマズかった!?ちょ、ちょっと待って、今新しく考えるから!」
「戯けが、そういうことじゃないじゃろう…ほれ影楼、ハンカチじゃ。」
「……え?……あれ、なんでだろう……へんだね……とまらない、ね……」
「…ヨシヨシ。…影楼、お主はここにいていいんじゃよ?お主の過去に、何があったのかはわからんが…
そんなもの、ここでは関係ないぞ。影楼は影楼じゃ。…だから、その涙を存分に流すといい。…ここには、みんないるからのう。」
「……うん…なんでながしてるのかわからないけど…そうするね……」
「おう、いい子じゃのう。…どこかの誰かさんとは大違いじゃ。」
「…やめやめ!頭領しんみりとした感じ嫌いだから!もっと楽しく、騒いでいこうよ!」
「…ハァ、誤魔化しおって…少しは成長してるかと思ったら小僧は小僧じゃったか…」
「お嬢ひどくない?でもさ、折角ここに来たんだから、もっと明るくいこうよ!ね、みんな!
…そうだ、まだ言ってなかったことがあったね、影楼。…ほら、みんなも一緒に!」
―――「「「「「「『影』へ、ようこそ!影楼!」」」」」」―――
―――これは、彼女が影楼となり…光を得るまでの物語。彼女が『箱舟』に乗るのは…まだ、もう少し先の物語である……
光と影と影楼と 第二話 彼女が『光』と『影』と『影楼』を得るまで
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