「………………え………?」

「ん、うまく聞き取れなかったかな?護衛任務みたいなもので…」

「そ、そうじゃないよ……最後の任務って…?」

「ん、だから任務が終わったらもうここには帰ってこなくてもいいよってことだよ。俺がそう決めた、現頭領である俺が。」

「なん…で…」

「さあ?自分で考えたらどうかな?誰でもなく、影楼自身が。時間はたっぷりとあるだろうし。」

「……………」

「もういいかな?俺もいろいろと忙しいから。」



「あ、影楼ちゃん!新しい料理を作ったよ!是非食べて欲しいんだけど…影楼ちゃん?」

「む、影楼様?えーっと、行ってらっしゃいませ?」

「んー…お姉ちゃんどこか行くの?行ってらっしゃい…」

「ん、おう影楼、どこか…おう、いってらっしゃい…」

「…んー、影楼、先生の教えたことはちゃんと覚えておくんだよー…きっと役に立つからねー…」

「…小娘、コイツを持っていくといい。何、ただのお守りじゃ。身に離さず持ち歩くこと、いいな?」



…こうして、僕は影の里を出た。
…何がいけなかったんだろう。僕は何をしてしまったんだろう。

…なんで、僕は影から捨てられてしまったんだろう…

…考える、頭領はそうしろって言っていたから。…考える、そう言われたから。
任務をちゃんと遂行出来てなかった?命令をちゃんと聞けてなかった?役に立つことができてなかった?
…わからない、どれがダメだったのか、それとも全部ダメだったのか…

…この任務は、この最後の任務はやり遂げよう。この任務は最後の居場所だから。
…もう、他の居場所は無いのだから…



そうして、僕は医学者…マスターと合流した。
マスターとの自己紹介も終わらせて、僕はマスターの護衛を始める。
いつでも、どこでも、どんな時でも護衛をしていたけど、なぜかトイレや入浴の時はしないように、と命令された。
僕はそれに従う。命令は守る。そうすれば捨てられないはずだから。
何だってする。どんな命令でも守る。そうすれば捨てられないはずだから。
感情は尚更要らない。感覚も最低限でいい。どんな状況でも同じことが出来れば、捨てられないはずだから。


僕はそれでいい。求められるようにする。捨てられないために、居場所を守るために。
一つでも居場所があれば、最後の居場所があれば、僕は僕で居られる。
僕はここにいる。一人でもそれを見てくれればいい。誰でもいいから見てくれれば…


…それは箱舟に乗ってからも変わらなかった。1年と少しの時間が経っても変わらなかった。
彼女はそれを変えようとも思わなかった。居場所はそこにあったのだから…



「……ん、周りがうるさい?マスター……うん、嵐みたいだね……大丈夫、僕はここにいるよ……」



―――これは、彼女が…箱舟に乗るまでの物語。
―――ここまでは、彼女の過去の物語。
―――これから先は、彼女が歩む、未来の物語である。






「…行ったか。…ミラージュフォックス、か…」

影楼が出て行った執務室で一人、僕は呟く。…あの時、彼女を俺は拾うべきではなかったのかもしれない。
頭領として必死に接したが、それでも一向に改善されなかった…当然だ、頭領の本質は僕なのだから。
…ならば、どうしてもそれに影響されてしまう…
…手元の書類を見る。…ミラージュフォックス…どうして彼女は僕と似ているのだろうか、設計された存在…

「……リョウ………トウリョウ……!……」

足音が聞こえる。おそらく今回の事に関して、新世代が話しに来たのだろう。
…さて、なんて誤魔化そうかな…まあどうせ僕は何を言われようと、気にしないのだが。


――僕がみんなにどう思われるかなんて些細なこと、どうだっていいのだから。


光と影と影楼と 第四話 彼女が箱舟に乗るまで

このページへのコメント

作成お疲れ様でした
これが、影楼ちゃんの今までだったんですね
頭領さんはなぜ詳しく説明をしなかったのでしょうかね……

0
Posted by ゾディー 2016年09月24日(土) 19:34:37 返信

影楼が船に乗るまでに、こんなことがあったんだな。
とりあえず、頭領とは1度お話してみたいもんだ。

作成お疲れ様でした。

0
Posted by 安藤竜 2016年09月24日(土) 19:06:21 返信

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