この作品は、とある踊り子が方舟に乗るまでの経緯、その裏側での外伝的作品となっています。
事前に二作品を読んでね!

敵の血潮で濡れた肩。地獄の部隊と人の言う。果ての街に、百年戦争の亡霊が蘇える。パルミスの高原、ミヨイテの荒野に、無敵とうたわれたメルキア機甲特殊部隊。情け無用、命無用の鉄騎兵。この命、金30億ギルダンなり。最も高価なワンマンアーミー。
次回、『血濡れの肩(レッドショルダー)』。ゴロー、危険に向かうが本能か。






――――モーターの駆動音が響き、ローラーが地を削り、荒れた大地を鉄の騎兵が走り続ける
あの時と同じ機体を駆り、嘗て身を投じていた戦争を思い出す
――――レンズの向こうから、煙が立ち上るのが見えた、どうやら戦いの運命から…むせ返るような炎の運命からは逃れられないようだ




魔獣が、人が、そして神が、一つの街を舞台にして凄絶な争いが繰り広げられていた。
引き裂かれた人間が、首を切り落とされた魔獣が、街の至る場所で無残にも朽ち果てている。
その奥、半壊した酒場を拠点に一座とも言うべき数の集団が魔獣の軍団と、軍団の奥に控える魔獣たちとは格の違う存在と一進一退の攻防…
否、魔獣の数は神の一柱から次々に生み出され、何時果てると知れない終わり無き消耗戦を繰り広げていた。

「全く、困ったもんだね神様って奴は…勝手に出てきて好き勝手に暴れ回る…その辺の野良犬の方が躾がなってるんじゃないかい?」
「同感…発情期の犬じゃないんだから、さ!」

座長と呼ばれる女性と狼の獣人が先頭で得物を振るい、魔獣を蹴散らしていくが数は一向に減る気配を見せない。
一座の団員が交代で戦い、負傷した者を下げて、無事な者や治癒の術で回復した者が代わりに前に出る…当初の作戦は成功したかに見えたが誤算があった。

「しかし…斬れども射てども減らないねぇ…コッチは戦えるのが減って来ているのにね!」
「神様はロクなものじゃないとわかりますよ…っと!」

最大の誤算は敵の兵力が無限にも等しい事、神の力か魔獣が未だに減ることなく、むしろ増えているようにも見える。
やがて、一人、また一人と負傷者が増え、武器も摩耗し使えなくなっていく。
そして、座長が手にしていた銃剣の刃が嫌な音を立ててへし折れた。

「あっちゃあ…年貢の収めどきって奴かね…」
「座長!」
「(アタシも此処までか…皆、ゴメンよ…)」


一匹の魔獣が、折れた銃剣を手にした座長へと近づき顎を開き、柔らかそうな皮膚へ今にも牙を突き立てんとするその時


激しい銃声が鳴り響き、座長を喰らわんとする魔獣がチーズのように穴だらけになり、地に倒れ伏す。
そして、地平線の彼方から一体の巨大な鉄の騎兵が土煙を上げて大地を疾駆し、両手に持ったマシンガンのノズルから放たれた無数の銃弾が魔獣たちを貫き
唸りを上げて襲いかかる魔獣をローラーを滑らせ軽やかにターンし回避すると、返す刀でマシンガンを構え容赦なく穴だらけにしていく。

「座長!無事ですか!?それに…あの鉄騎兵は…一体…」
「…百年戦争と呼ばれた、ある国同士の戦争で使用された鋼鉄の死神…最低野郎(ボトムズ)…その中でも最悪の部類だよ。…見な、アイツの肩を」
「赤い…まるで血の色みたいに…」
「レッドショルダー…そう呼ばれた地獄の部隊の識別カラーさ…」


降り注ぐ火球。舞い降りる魔獣。最果ての街が燃える。圧倒的、ひたすら圧倒的パワーが蹂躙し尽くす。ささやかな望み、芽生えた愛、絆、健気な野心。老いも若きも、男も女も、昨日も明日も飲み込んで走る、炎、炎。音を立てて、街が沈む。
次回、『脱出』。不死鳥は、炎を浴びて蘇える。




鋼鉄の騎兵は飛び掛る獣を旋回で避け鉄拳で殴り倒し、数が纏まった所にミサイルを放ち、確実に数を減らしていく…が、やはり魔獣は生まれ数を増やす。

「(元を断たなければ元の木阿弥か…)」

そう判断すると、鉄騎兵は一度足を止め、周囲に煙幕弾を放ち辺り一帯を煙で包み、赤外線スコープに切り替え、右往左往する魔獣たちをマシンガンで撃ち殺しつつ
膨大な数の魔獣の隙間を縫って、奥へ奥へ進んでいく。煙が晴れる頃には、既に神とは目と鼻の先の距離まで近づいていた。
予想すらしていなかったのか、驚きの表情を見せる神を無視し、神の周辺の一際巨大な魔獣を目標に、機体左後部に備えられた大型ライフルを展開、トリガーを引き弾頭を射出し
巨大な魔獣の頭部を一撃で吹き飛ばす。

「キ、キサマ!神に歯向かう気か!」
「神だろうと、俺の邪魔をするなら殺すまでだ」
「正気か!キサマ!」

神の反応を黙殺し、ありったけのミサイルを放ち神ごと周辺の魔獣を焼き尽くす。障壁を張っているのか、神も無傷とはいかないがそれなりのダメージを受けていた。
そして、ミサイルの爆炎で神までの道が拓けた瞬間、最大速度まで加速し、最短距離で神を目指す。阻止せんと神の掌から放たれる魔力の光弾が機体を貫き、
機体の各所が火花を上げるが無視して突貫し。遂に、マシンガンの銃口を神へと向ける事に成功した。

「い、今なら…許してやろう…ほら、あの女どもを好きにしても良いぞ?どうせ死ぬ運命なのだ…な?」
「俺の運命を、ましてやあの人たちの運命を好きにする権利は、神だろうと…無い」
「ヒッ…止めろ!止せ!ギャアァァァァァァ!」

トリガーの引き金を引き、神と呼ばれた存在を肉片にすると、統制が取れなくなった残りの魔獣を跡形もなく蹴散らしていく。日が傾く頃には、勝敗は決していた…人類の勝利だった。
戦いが終わり、機体は役目を終えた事を伝えるように機能を停止した。おそらく、修理は出来ないだろう。コクピットハッチを開けて、機体から降り、
バックパックを背負い歩き出そうとするが、こちらを見つめる視線に気づく…どうやら、先程の女性たちだった。

「座長を助けてくれて、本当にありがとう」
「アンタは命の恩人だよ…すまないね」

二人の感謝の言葉を受け取り、小さく会釈しその場を離れる…彼女達の瞳に映る恐怖の感情は当然だろう、あれだけ派手にやったのだ。…当然の結果とも言える。
僅かに胸の奥が疼くが既に心は冷えている。箱舟への道のりは確認している。数日あれば到着する筈。
…俺は、今度は間に合った。そんな小さな身勝手な満足感を胸に、歩き出していた。

何もかもが、炎の中に沈んだ。男も、女も、魔獣も。そして、神であろうと同じだ。全てが振り出しに戻った。兵士は、死んだ魂を疲れた身体に包んで、泥濘と硝煙の地に向かった。
次回、『流転』。傭兵は、誰も愛を見ない。

このページへのコメント

作成お疲れ様です!
むせる(確信)

0
Posted by ディロス 2016年09月14日(水) 01:03:40 返信

むせる
作成お疲れ様でした!
むせる

0
Posted by ゾディー 2016年09月14日(水) 01:00:56 返信

作成お疲れさまでした
むせる…

0
Posted by カリュー 2016年09月14日(水) 00:46:06 返信

むせる(確信)

作成お疲れ様でした。
ボトムズだこれ!!!

0
Posted by 安藤竜 2016年09月14日(水) 00:37:04 返信

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