人類が排出する有害ガスが大空を赤褐色に彩り、リサイクルの仕様がないどろりとした産業廃棄物が大地を覆う終末の世界。
鉛色の雨が降り注ぐ、廃棄物に埋もれた荒野では滅びに瀕する人類とは別に、今も逞しく生きる生物たちがいる。

 黒い粘液質の泥水を啜り、同じく生き残った生物或いは辛うじて消化される廃棄物を喰らい、それは生き延びてきた。
山と積まれた廃棄物の山から姿を現したのは以前まで世界各地で発見されていた生物。
ピンとした耳、犬にも似た顔立ち。一種の猛毒とも言える黒い泥状の廃液で汚れている赤錆色の体毛。
生き残るために自然と鍛え上げられた細く靭やかな一メートルほどの肉体。己の身体を覆い隠すのも容易なくらい大きく長い九つの尻尾。
それを知っているものならば一目見ただけでこう答えるだろう。
大きさは違うが、正しく狐であると。

 狐は今日も生き残るために廃棄物から餌を探していた。もはや慣れている極限の飢餓に耐えながら狐は動きまわる。
無造作に置かれた超合金の像を溶かす猛毒の雨に濡れながら、前足で廃棄物の山を崩している時にそれは起こった。

 突如として世界全体が光に包まれて、廃棄物の山が分解されていったのだ。
唖然とする狐を他所に世界はどんどん色を取り戻していく。空は見たことがないほど蒼く澄み渡り、雨は透き通るほど透明だ。
どす黒く汚れた大地には次々と植物が芽吹き、凄まじい勢いで成長していく。
生まれてから一度も見たことがない、緑豊かな大地がそこには広がっていた。

 驚きのあまり動けなかった狐の周りには鬱蒼と木々が茂る樹海が形成されている。
遥か彼方の昔より肉体に刻まれた本能が囁いている。これこそが楽園である。
尽きることのない餌がある。末期の生き延びた狐はそう確信した。

 口角を歪めるように笑い、己の飢餓を満たすために森に入ろうとする狐に声が聴こえる。
威厳と傲慢に満ちた声。呪いにも似た言葉。人類を総てを滅ぼせという指令。
言葉と共に強大な力がその身に宿る。この終末を生き延びた肉体をさらに強靭にする神の力。
狐の身体は神の力を受け、無意識に望んだ姿へと変化する。

 骨と肉が捻れるような音が樹海に空いた小さな広場に響き渡る。
仁王立ちする狐の、赤錆色の体毛に包まれた肉体は大きくなっていく。
その体高は五メートルに達し、体長は九つの尻尾も合わせると二十メートルを越えていく。
合わせて顔は白くなり、ある意味汚らしかった赤錆色の毛は金色に染まる。
大自然に人類を滅殺する強大な生命が誕生する。
巨大な九つの尾をゆらゆらと揺らしながら佇むその姿は古くから伝わる日本に伝わる大妖怪。
白面金毛九尾の狐にも似た姿となっていた。

 己の身体の変化に少し戸惑う狐にまた神の言葉が届く。
その暴威を持って人類を殲滅しろ、期待しているぞ。という呪いの言葉だ。
九尾の狐は神の言葉に従うが如く、力強く樹海へ駆け出す。
人類を総て食らってやろう。洗脳めいた言葉は楔となり、己を満たす飢餓にも匹敵する欲望となる。
その莫大な力に掛かれば人間などどのような兵器に乗ろうと紙くず同然に吹き飛ばせるだろう。
世界でも最高峰の力を持った命の前にこの世界で人類が生き残る手段などあろうはずがない。

 神が人類を殲滅するために異形の生物を作った。その折りに終末の世界を生き延びた命を使ったことは凡そ成功と言えるだろう。
あるものは狡猾に立ち回り、あるものは肉体を強靭にすることで最後まで生き延びてきた。
トカゲや蛇は強大な竜となり、小鳥は大空を羽ばたく怪鳥と化す。だが、全く誤算がなかったとは言えない。
神とて世界を滅ぶす人類を作り上げたのだ。誰だってミスはするだろう。

 九尾の狐もそのミスの一つ。彼女は所謂、肉体能力のみで生き残った存在であるということ。
その頭は一言で言えば残念。会ったことがない人類など分かるはずがなかったのだ。
救済措置として人間の姿を頭に送ったが、アホな狐はすぐに忘れてしまった。
神に力を与えられ、強大化した圧倒的な肉体能力も自由自在に動く九つの尻尾も喰いでがありそうな他の異形に向かう。
人間何ておやつにすらならない存在であるため、無視される始末である。

 九尾の狐がいる場所では人間のような弱いもの以外に己と同等の生命体しか残らないようになった。
人間はその有用性に気づいたのか、餌付けに掛かり、狐は持ち前の頭の悪さから簡単に餌をくれる人間へ味方するようになる。
怒った神の眷属が人間に近しい姿に変化させるも力自体は変わらないのでほぼ意味が無い。
人間にダイスが与えられた後も九尾の狐は重宝され、箱船まで人間についていくこととなる。

 容姿は端麗だが、中身は九尾の狐なアホの子は今日も本能に従い、生きていく。

『…………zzz…………油揚げ……』

このページへのコメント

餌付けは最良の手段の可能性がある…!
九尾葛葉可愛い

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Posted by ラケル 2016年09月11日(日) 22:52:56 返信

作成お疲れ様でした!
最初真面目にやるかと思ったらこの残念さ……これはポンコツ可愛いというのでしょうかね

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Posted by ゾディー 2016年09月11日(日) 21:52:44 返信

九尾葛葉さん、怖格好良い前半からのこれである。
可愛いのだけど、侮るとヤバい感ありますね

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Posted by クロマツ 2016年09月11日(日) 21:41:36 返信

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