注意
・一部R-18Gな描写がございます。ご注意ください。

- 箱舟内にて

『いったいどういう教育されてきたんだ、ですって?』
『それはもちろんお父様から血の滲むような……滲む、よう…………あれ?』
『……と、とにかく色々頑張ってきたのですわ!』



とある山中に建てられた屋敷、周囲を森に囲まれたその館に一人の少女が空から舞い降りた。

『ここね、麓の下等生物どもが言っていた、生き残りが住む館というのは』

少女はただの人間ではない。
創造神の手によって人間から生み出された人類抹殺の尖兵、神兵であった。
創造神の使命のまま、先程まで山の麓の町に住む人間を抹殺していた折に
山中に一人で暮らす人間の話を聞き、抹殺の為に訪れたのだった。

『それにしてもこのご時世にこんな古びた館に引きこもりなんてねぇ』
『一瞬で消し飛ばすのもつまらないし、その臆病者の顔でも拝んでやるとしますか』

空中から屋敷を一瞥した後、少女は正面扉を音もなく消し飛ばし侵入していった。



(いたいた、地下シェルターにでも引きこもってるのかと思えば、まさか普通にいるとはね)

標的はすぐに見つかった。
幾つもの部屋が並ぶ廊下の角部屋、テラス付の部屋の中で人間が一人、開け放たれた扉に背を向けて座っていた。
どうやら奥のテレビに映し出された映像を見ているようだ。

(暢気に何を見てるのかしら……?)

音を立てずに部屋に近づく。テレビの映像と音声を認識できる程度の距離まで来てふとテレビに目をやる。



テレビには、地下室のような一室と二人の人間が映し出されていた。
一人は少女だ。虚ろな目をしたままティーポットからカップに紅茶を注いでいる。
もう一方は大人の男だ。男は少女の頭に手を置きながら少女の淹れた紅茶を飲む。
いや違う、男は手の指を少女の頭に突き刺していた。
テレビの横のスピーカーから男の声が聞こえてくる。

「不合格だ、湯を沸かしすぎてるし茶葉も多すぎる。紅茶は飲めれば良いというものではないと何度も教えただろう!」

クチュクチュと肉をかき混ぜる音が響く。

『がぁっ、あっあっ……』

音が響くたびに少女の口から喘ぎ声が漏れ出す。

「こんな調子では何時まで経っても英国紳士にはなれんぞ」
「箱舟が出るまでもう時間がないんだ。さぁ、やり直し!」

男は突き刺した指を音を立てて動かす。するとまるで男に操られてるかのように、
頭に指を埋め込まれながらも少女は紅茶の淹れ直しに取り掛かる。

「今夜は【社交界での英国紳士としての振る舞い方講座】12時間コースもあるのだぞ。急ぎなさい!」
『あっ、あっ……』

二人の姿が映像に移らない間も、肉をかき混ぜる音と時折発せられる少女の喘ぎ声は聞こえ続けた。



テレビの中で繰り広げられるおぞましい映像を前に、男は紅茶の入ったカップを片手に独り言をつぶやいていた。

「あぁ、可愛いキャロルよ。許しておくれ」
「立派な英国紳士にすると約束したのに間に合わず、お前を中途半端なまま送り出してしまった私を!」
「時間さえあればお前を完全に【英国紳士/私】に仕立て上げれたというのに!」
「ゴホッゴホッ!それもこれも全てこの病のせいだ!おのれ神め、そこまでして英国紳士を根絶やしにしたいのか!」

情緒不安定なのだろうか、懺悔したと思えば突如怒りを顕わにし始める。
(何アレ……やっぱり人間って最低……)

『旦那サマ、オ客様ガオ見エニナッテオリマス』

男の異常な光景に気を取られていた神兵の少女の背後から唐突に声が上がる。

(いつの間に!?)

背後に立っていたのはメイド服姿の少女だった。抑揚のない声と虚ろな瞳は先程の映像を彷彿させられた。

『えっ?あなた……なんで?』

少女はメイドの顔に見覚えがあった。自分と同じく創造神様から力を授かった神兵の一人だ。
前に一度、共同で大規模集落の殲滅を行ったのを覚えている。

「やれやれ、またかね」

後ろから男の声が聞こえると同時に、ぐちゅりと音を立てて自分の後頭部に何かがねじ込まれるのを感じた。

『あっあっあっ……(こ、声が……それに体も……!)』

体を動かせず、男の指が自分の脳内を蹂躙する感覚と共に意識が混濁していく。

「余命幾ばくも無い者にさえ刺客を送り込む、やはり神は英国紳士を危険視しているのだな」

この男は何を言ってるのだ、そんな考えも頭の中から響いてくる音にかき消されてしまう。

「さて……メイドは一人で充分だし、この子はどう仕立てるか……」

このまま自分は神兵に選ばれる前と同じ、惨めな運命を辿るのか。そう悲観する彼女の耳に

「金髪……そうだ、この子は"キャロル"に仕立て上げよう!」
「時間はかかるだろうがどうせ残り少ない人生、最後まで挑戦心を忘れてはいけないな。英国紳士として」

それ以上に最悪な運命を告げる宣言が耳に入った。

「キャロルの時より大仕事だがなぁに、時間は私が死ぬまであるのだ。まずは地下の教育部屋の準備だ!掃除を頼むぞ」
『畏マリマシタ』

嫌だ!やめて!そう叫びたくても声は出せず、少女はそのまま男に引き摺られていく。



とある山中に建てられた屋敷、周囲を森に囲まれたその館に一人の紳士と一人のメイド、そして一人の娘が暮らしてる。
紳士の妄執は何時か訪れる終末の日まで消えることはないであろう。そして

『ここね、エンジェルシードの反応があるのは』

また一人、少女が空から舞い降りた。

このページへのコメント

ヒエッ
人間の業とは悍ましいな。

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Posted by 御劔(ミツルギ) 2016年09月21日(水) 09:43:52 返信

作成お疲れ様です。

自分を遺す為、ですか。
近い様で遠いですね。
・・・キャロルさんの自我が、全てを飲み干し切る事を。

0
Posted by クロマツ 2016年09月21日(水) 02:13:01 返信

どう考えてもやりすぎだろ・・・。

作成お疲れ様です。
なんというか、呪い、ですね。

0
Posted by 安藤竜 2016年09月21日(水) 02:07:57 返信

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