「安藤竜の1日特別編:出生編」

ここは、日本のとある病院のとある産婦人科。
そこで今、新たな命が産まれようとしていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

忙しなく病室の前を歩き回る一人の男性。
それを嗜めるように、背後に控えていた老執事が声をかける。

「旦那様、少々落ち着かれませ。」
「貴方が慌てたところで何も変わりませんよ?」

「落ち着いていられるか・・・!彼女は今、命懸けで・・・!!」

その声に対し、少々声を荒らげるようにして男が答える。
だが、その発言の後少しして落ち着きを取り戻したのか、椅子に座る。

「すまない、思わず・・・。」

そう、謝罪する。目の前の執事は自分が幼い頃から支えてきてくれた人物。
こちらの気持ちを分かった上で、憎まれ口を叩いたのだろう。

「いえいえ、爺の言葉に耳を傾けていただき感謝しています。」
「しかし、聞いていたよりも厳しいのですね。あの一族の呪いというのは。」

そう、今病室の中で子供を産んでいるのは、とある亜人一族の巫女であった女性。
傷つき、倒れているところを男によって介抱され、2人は互いに恋に落ち、子を成した。
その間に集落への殴り込みとか色々あったがここでは割愛する。
2人はとても幸せそうであり、執事として仕えている時間も、至上のものであった。
されど・・・。


「だからこそ、あの娘は、あそこまで苦しんでいる・・・!僕のせいで・・・!!」

人間と特殊な亜人の子。
そういった事例は珍しいが日本においても聞かない話ではなかった。
ただし、健康な子供が生まれてくること自体稀であり、最悪の場合母子共に死に至ることもある。
仮に産むとするならば、命懸けの所業なのだ。

「自分をあまりお責めにならないで下さい。貴方が望み、彼女が応えた。その結果を否定することになります。」

「・・・・・・・・・分かっているさ。」

苦しげに答える。
その時、病室のドアが開き、子供の泣く声が聞こえて来た。

「おめでとうございます!男の子です!ですが、奥方様の容態が・・・!

看護婦の声を聞き終わるその前に、病室に飛び込む

「■■■!!大丈夫か!!」

ベットの上で寝ている。
顔色は悪く、まるで、死人のよう。
されど、そこに確かに生きている。

「よく、頑張った!!だから死ぬな!これから、僕達3人の人生が始まるんだ!」
「海へ行こう!山へ行こう!3人で、どこへでも行こう!!」
「だから・・・!!」

溢れ出る涙を、止めることは出来ない。
事実を否定したくても、触れる手から伝わる熱が、徐々に弱くなっているのがわかる。
ああ、だめだ、大切な人が、愛した人が、死んでしまう・・・!!

「・・・・・・・・・ふふ、酷い顔ね■■■。」

弱々しい声だが、しっかりと彼女は声を出す。
目の前で泣きじゃくる最愛の男に、伝えたいことを伝えるために。

「■■■!!」

思わず飛びかかってきそうな男を静止し、言葉を発する。

「■■■、私は多分、ここで死んでしまうわ。」
「そして、この子もきっと、普通には生きられない。筋力が、通常の人よりも遥かに弱いんだって。」

そう、事実を突きつける。
時間が無い。早く、早く。

「だから、この子は、施設に預けてちょうだい。貴方の家が持つそういう子達が集まる施設に。」
「そして、新しい大切な人を見つけて?私達のことを忘れろなんてことは言わない。寂しいもの。」
「だけど貴方は安藤の家の跡取りだもの、後継者は大切なはずよ。」
「ね?私からの最後のお願い。」

そう、弱々しい声で微笑む。
言いたいことが言えて満足したのか、徐々に身体から力が失われていく。

「・・・・・・・・・・・・!!わかった!お前の願い、必ず聞き届ける!」
「だから、最後に、この子に名前をつけてやろう。」
「2人の、愛の証明に・・・。」

「・・・・・・あら、私はもう考えてあるわよ?私たちの一族の守り神様の名前。」

「僕も、考えている。我が家の家紋にもなっている、その名前は。」

「「竜!」」

同じ名前を出した偶然に、互いに笑みがこぼれる。

「・・・・・・・・・こんな時まで気が合うわね。」
「今まで楽しかった。人を殺すためだけに生まれてきた私を、貴方は愛してくれた。」
「最後に、貴方の子を、産めてよかった。」
「・・・・・・・・・また、いつか会いましょう?」

そう、言葉を発して、■■■は息を引き取った。

「ーーーーーーああ、いつの日か、必ず会おう!!」



「これが、あいつの、我が息子の生まれだ。」

屋敷にある書斎室。タバコを吸いながらそう話すのは、この屋敷の主。

「・・・・・・・・・・・・その話もう20回近く聞いたのですが。」

そして、その話を聞かされているのはその主の娘である少女。

「まあ、アンドリューの身体が弱い理由と、たまに犬耳とか尻尾が生える理由は分かりました。耳タコですけど。」

そう、深いため息を吐きながらやれやれと言った感じで感想を述べる。

「ふむ、僕の前でくらい御兄様とでも呼べばいいだろう娘よ。恥ずかしいのか?ヘタレめ。」

「余計なお世話です駄目お父様。あの人の前でヘタレるのは貴方も同じでしょう。何カッコつけてるんですか。」

「はぁ?いいんですー!父親とは息子の前でかっこよくいたいものなんですー!!」

親子喧嘩が勃発しそうなその時、部屋の扉がノックされる。

「失礼します。お嬢がここにいると伺っていたのですが・・・。」

「ああ、ご苦労。君には娘がいつもお世話になっているね。」

「遅いわよ、アンドリュー。もう少し早く迎えに来なさい。」

彼が入ってきた途端、喧嘩は嘘のように収まった。
つまるところ、似たもの親子だということなのだろう。

これが、彼の出生にまつわるお話。
彼の肉体が、なぜ弱いのかというお話。


あとがき

安藤の肉体の弱さに関する設定、お呼び種族のところの?マークの理由です。
かなり独自設定入ってますが、お読みくださりありがとうございました。

このページへのコメント

作成お疲れ様でした!
なるほど、だからあんなに力が弱かったんですね……
その割にはお姫様抱っこをよくされてるのはなぜなんでしょうね?

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Posted by ゾディー 2016年09月14日(水) 17:04:39 返信

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