「安藤竜の1日:執事時代編」

とある執事の証言
「え、アンドリューさんのことですか?優しくて頼りになる、兄貴分、みたいな感じですか。、」
「欠点・・・?特にないと思いますけど・・・。あぁ、あのドジ体質は確かに欠点かもですね。」
「なんで洗濯物を洗っていただけなのに屋敷の中で迷子になってるんでしょう。」
「あと、女性関係でちょっと・・・。ってなんですか!?何でそんなに怒った顔を!?」
「娼館に通いつめてるって噂は本当なのかって、本当みたいですけど・・・。」
「いや、違いますよ、身寄りがなくて娼婦にならなきゃいけなかった子達のとこに通って、お金を落としてるって話です。」
「・・・・・・・・・あ、これ話しちゃダメなヤツでした!アンドリューさんに殺され、はしないですねあの人虚弱ですし。」
「ってお嬢様!?どこに行くんですか!?アンドリューさんのところ!?ちょっと待って下さい!!」
(音声はここで途切れている)



「で、なんで俺は正座させられてるんでしょうか・・・。」

訳が分からない。休憩時間に部屋で寛いでいたら、いきなりお嬢が飛び込んできて正座をさせられている。
なにかしてしまっただろうか、思い当たる節は無い。

「・・・・・・それで貴方、娼館に通いつめているって本当なの?」

すまし顔をしているが頬がほんのり赤い。恥ずかしいならもうちょい遠まわしに言えばいいのに・・・。
まあ、そんなところもこの主人の可愛らしいところなのだが。
それは置いといて、目の前の質問に答えるとしよう。

「ホントの話ですけど。つーか、誰から聞いたんですか、その話。」

「ハーマイオニーから。」

言われて納得する。変なところで抜けているあいつならやりかねん。
あの女顔、ポロッと口を滑らせやがったな・・・?
まあ、後で料理にタバスコでも混ぜておこう。

「つーか、何か問題あるんすか。」
「俺が働いて稼いだ金だし、どう使おうが勝手でしょう。」

とりあえず聞いてみる。
何の意味も無いことはわかってるが、反論はする。
予想ではこの後・・・。

「最低ね。その虚弱な身体で女性を満足させられてるの?出涸らしの相手なんてさせるものじゃないわよ?」

予想通りいつもの罵倒が始まる。
これでも、初期のやたら攻撃的なものに比べれば落ち着いたのだが。

「はいはい、俺はバカですから。気にしないでくださいよ。」
「ほら、なんか欲しいものがあれば買ってきますから、許してくださいって。」

そしてこれもいつもの手段。
何故か、俺が何かを買ってくるというとピタリと癇癪が止まるのだ。

「・・・・・・・・・私甘いものが食べたい。」

「了解です。じゃあ、買出しのついでになにか探してきますね。」

そう言い、最後に頭を撫でて部屋を出る。
我が主ながらチョロイ。未来が不安になる。
だがまあ、妹がいればこんな気分なのかな、たまに、そう思う。



「ふう、疲れた・・・。」

あの後、すぐに街に買出しに出た。
街はお世辞にも活気づいているとは言えず、皆一様に表情が硬い。
仕方の無いことだと思う。世界の在り方はここ数十年でめまぐるしく変わった。
それでも、皆、必死に生きている。
なんて、柄にもなくしんみりとした気分になる。

「屋敷に帰る前に一服していくかなぁ・・・。ん?」

煙草でも吸おうかと思ったその時、視界の端に見覚えのある少女が映る。

「アンナちゃん・・・?」

そうだ、いつも通っている娼館の子。
親を魔獣に殺され、身寄りを無くし、娼婦になった少女。
その少女が、裏路地に消えていく。
・・・・・・・・・柄の悪そうな男達とともに。

「・・・・・・・・・・・・はぁ。」

火をつけようとしたタバコを胸にしまい、後を追う。
あんまり荒事を得意じゃねぇのになぁ。



その日、娼館でアンナという名前で働く少女は機嫌がよかった。
お世辞にも美人とはいえず、人気のない自分にとっての固定客、安藤と呼ばれる青年から予約が入っていたから。
その青年は、こちらの話を何でも聞いてくれるし、こちらの望むように優しくしてくれる。
本来、こちら側が癒す立場であるのに、彼は自分のささくれだった心を癒してくれる。

「娼婦としては、失格だよね・・・。」

そうひとりごちる。しかしその足取りは依然として軽く、気分も良かった。
だからこそ、普段なら気をつけていることから、注意がそれた。

「痛っ!」

誰かとぶつかる。
恐る恐る目を開けると、やはり、想定していた通りの結果が待っていた。
目の前には下卑た笑みを浮かべた男達。
治安が悪くなっている今のこの国で、こういった手合いは珍しくない。
だからこそ、街を歩くのにも神経を張り巡らせるように、指導を受けていた。

「いや、離して・・・!」

男達に手を掴まれ、路地裏に連れ込まれる。
助けを求め用としても無駄だ。誰もが今を生き抜くことに精一杯の今の世の中で、見知らぬ他人を助けようとする人なんて、ほぼいない。
最悪の事態を想像して、目から涙が零れる。
良かった機嫌も、急降下。

「おい、お前ら何やってんだ。」

だからこそ、聞き覚えのあるその声に、ついに涙腺が決壊してしまった。



「おい、お前ら何やってんだ。」

とりあえず目の前の男共の数を数える。
4〜5人、うん。勝てるわけねぇなこれ。
こんな時に颯爽と全員ぶっ飛ばすことが出来ればかっこいいんだろうが俺の腕力ではそれが許されない。

「とりあえずさ、その子を離せよ。」
「んで、とっとと消えてくれ。」

見捨てるという選択肢はないので必然的に説得を試みる。
言葉でわかってくれればいいなー、ダメかなー。

「お前らも、怪我したくないだろ?」

最高に睨みをきかせる。怯えてくれないだろうか。
というか相手に捕まってるアンナちゃん少し笑ってない?

「怪我してぇってんなら、かかって来いよ!」
「野郎ぶっころしてやらぁ!!!」

(10分後)

ダメでした。
そこには無様に横たわるボロ雑巾のような男がいた。俺だった。
いやぁ1人なら最悪なんとかなったけど、複数人は死ねる。
マジであいつらボコボコにしやがった。
まあ、アンナちゃんには何も無かったし、金は取られたけど大した額じゃないから結果オーライ。

「あの、安藤さん大丈夫ですか!?」

「ん?大丈夫大丈夫、このくらいの怪我日常茶飯事だし、自分で治療できるしな。」

努めてクールに、アンナちゃんを心配させないようにする。
まあ、あれだけ情けない姿を見せたんだし、というか俺の事情を知る彼女からすれば滑稽だっただろう。
まあ、それは問題ない。
別に好かれようが嫌われようが、やる事は変わらないし。
・・・・・・・・・嫌われるのはちょっと嫌だけども。

「その、助けてくださってありがとうございました!」

そう、満面の笑顔でお礼を言われる。
この笑顔を見れば、身体中の痛みも消えるってものよ。
あ、嘘です本当は痛いです。
とにかく、無事でよかった。子供が傷つくのを見るのは気分が悪い。

「いやいや、偶然通りかかっただけだから気にしないでpipipiっと、げ、執事長から。」
「じゃあ俺はこれで、また夜に!」

そう言って荷物を回収すると、屋敷に向かって走り出す。
執事長の折檻は死ねる。
あとこの場から早く立ち去りたい。かっこつけたのにボコボコにされるとか恥ずかしいし。
後ろでアンナちゃんが何かを叫んでいる気がするが、気にしている余裕は無い。
詳しい話は店で聞かせてもらおう。



「あ・・・。行っちゃった。」

色々と、感謝したいことがあったのだが、彼は行ってしまった。
叫んだ言葉は、多分聞こえてない。
私にも勝てないくらい弱い癖に、危険を省みず助けてくれた。
今の私は、きっとすごい締まりの無い顔をしているだろう。

「夜の楽しみが増えたかな。」

そう、独り言をこぼす。
そして自分も、娼館への帰途に着く。
今度は、しっかりとした足取りで。
あの、かっこ悪いけどかっこいいヒーローをもてなすために。




「ただいま帰りましたー、ってちょ!いきなり鋼糸で捕獲ってなんですか執事長!」
「ってお嬢も!やめて!引きずらないで!ほかの女の臭いがするってそりゃ街に出たんだもんそうでしょ!」
「アイエエエ!?ナンデ!?旦那様ナンデ!?」
「ぐわああああああああ!!!!」

これが、よくある安藤竜の1日の風景である。

このページへのコメント

作成お疲れ様です。
自分の身を省みず立ち向かい、きちんと女の子は助かっているのですから十分ヒーローですよ。
むしろ強すぎるよりも人間味があっていいんじゃないでしょうか。

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Posted by チガヤ 2016年10月12日(水) 16:37:11 返信

流石安藤さんッス!
女の子を颯爽と助ける姿かっこよかったッス!

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Posted by ラッド 2016年09月13日(火) 18:33:08 返信

作成お疲れ様でした!
カッコ悪いと思っているみたいですが、女の子を助けたという事実は変わりませんからね
そういったところもヒーローらしくていいですよ

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Posted by ゾディー 2016年09月13日(火) 18:20:11 返信

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