これは独りの男の出会いの話。心へと刻まれた大事な人たちとの出会いを語ろう。
暇な人は聞いておくれ。在り来たりな物語だけれども■■にとっては大事な思い出を。




雨が降る。冷たく肌を刺す冬の雨。それに混じって生暖かい血の雨が■■へと降り注ぐ。
昨日まで共に笑い合った仮初めのトモを殺す。頼りにしてると肩を叩いてくる仮初めの上司を殺す。犬のように慕って俺の後ろをついて回った仮初めの部下を殺す。恋人ができたと言って喜んでいた仮初めの同僚を殺す。
切って潰して殴って蹴って、刺して落として捻って裂いて殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して──皆殺し。
そうして裏にあったとある組織は壊滅だ。
どうしてそんなことをしたかって?そいつは簡単な理由さ。だって■■はそいつらの敵だった。それに気づかず味方だと勘違いしていた相手が悪い。

たったそれだけのよくある話。




ザーザーと雨が降り血を流し落としていく。火照った体が冷えていく。だが気にすることはない。
煙草を口に咥え火をつける。一筋の煙が天へと昇る。
一服した後、携帯を取り出しどこかへと電話を掛け始める。

「……こちら【大虚鳥】。仕事は終わったで。」

「こちら【鳴女】。アニマルフェルムの潜伏及びに情報操作、お疲れ様。あとはこちらで彼らは処理するわ。
貴方は本部に帰還し待機してゆっくりしてちょうだい。」

「あん?すでに全部【処理】し終えてるわ。他の奴の手なんざ借りる必要もないわ。
……ほとぼり冷ますために一ヶ月程潜伏してから本部には戻る。そう上にも伝えとき。くれぐれもそっちから接触しようとすんなや。
そいじゃまた一ヶ月後に」

「あっ……待ちな」

相手の返事を待たずに携帯を切り、電源を落とす。
どうせ処理するんやったら今、殺っても変わりはしない。
上の甘ちゃんどもは最低限の殺しで解体させるつもりだったみたいだけれどそれでは生き残りが俺を狙う。そのリスクを負う気は俺にはない。
ファミリーの奴らには俺のやり方を悪く思っている阿呆が多いみたいだがそんなこと知るか。
理解なんざされなくていい。心配なんかも必要ない。俺は一人で充分だ。

彼はそのまま雨の中傘をささずにフラフラと表の通りへと歩き出す。

「おにーさん、おにーさん。どうして傘もささずにいるの?」

どれくらい歩いた頃だろうか。30分…1時間……いやもっと時間が経っていたかもしれない。
後ろから澄み通るような声を聞く。振り返るとそこにいたのは10歳ほどの少年と少女が心配そうにこちらを見ていた。

「雨に濡れたい気分やから。たったそれだけのことや。
理由教えたからさっさと失せや、ガキども。」

「ダメだよ、兄さん。それじゃ風邪ひいちゃうよ」

「そうよ、顔真っ青じゃないの。早く体温めないと。」

俺はガキどもを無視して再び歩き続ける。

しかし少年少女は諦めない。死にそうな男をそのまま放っておくことなんてできやしない。
だから男の後ろをついていく。男に向かって心配だからさっさと傘さして体を温めろと何度も何度も口にする。
はじめは無視していた男もそれには我慢しきれなかった。

「だー!!うっさいわ、ガキども。
風邪引こうが別にええやろ!!俺に話しかけてくんな。頼む…か、ら……ほっとい…てく……れ」

口から出たのはかすれた声で、言い切った次の瞬間倒れこむ。
視界がぼやけ体に力が入らない。

「「おにー……だ………ぶ?…大……!?」」

ガキ共の声を聞きながら■■は意識を失った。



目が覚める。
見知らぬ天井。ツンと鼻をつく消毒液のにおい。時計の音だけが耳に入る。
体は清潔なベッドの上でぐるぐる巻きに縛られている。……縛られて?
そこでぼんやりしていた頭が覚醒し始める。手も足も動かせない。
これは一体どういうことだと思考すること数分。ドアが開く音がした。

「……おにーさん、大丈夫かしら。
ってあれ?目が覚めたのね!良かったわ。あのまま死ぬんじゃないかと不安に思っちゃった。」

現れたのは倒れる前に共にいた少女だった。これは一体どういうことだと尋ねる。

「おにーさん、いきなり声出したと思ったらそのまま倒れちゃって。揺すっても起きないからジローと一緒にパパの病院まで引きずっていったの。
それでね、パパに診せたら熱があるっていうからそのままベッドに寝かせたのよ」

それならなぜ縛ったのか……いや、そんなことは今はいい。さっさと解かせてお暇させてもらおう。

「えっとね、それはパパが決めるんだって。今から呼んでくるから待っててね。
あと私の名前はガキじゃないわ。私の名前はイリヤよ。」

そう言ってイリヤはドアの外へと出て行った。
そのまま放っておけばよかったものを………面倒なことをしてくれたものだとそっと呟いた。




「やぁ、失礼するよ。具合はどうかね、患者の客人君。」

部屋に入ってきたのは白衣を着た男。顔は継接ぎ、髪の一部は白く残りは黒髪。日系人のような顔立ちだ。
彼があの子供たちの父なのだろう。

「縛られてるいうのに気分良くなるような倒錯者ちゃうわ。さっさと解け」

「減らず口が叩けるほどには元気なようだな。
さて、解く前に君の体の状態について伝えよう。
高熱、全身殴打に切り傷多数。骨の幾つかはヒビが入っているし火傷もしている。
端的に言えば体はボロボロだった。
こんな体であの雨の中傘もささずに歩き回っていたそうだな。君はあれか……自殺志願者なのかね?」

「……んなことあるか。自分勝手に自由にしてまわっただけや。
質問には答えた。せやからええ加減縄解けや。さっさと俺を帰らせろ」

「…………はぁ。メンタルケアは苦手なんだ。凄く苦手なんだ。
体だけ治すほうがよっぽど楽だ。だがそれでは医者失格だ。
薬だけだしてさようならと思っていたが止めだ。君、これからここで最低でも一ヶ月は入院ね。」

「はぁ!?ふざけんなや、おっさん。こないなところ一ヶ月もおりたくもないわ」

殺気を籠めて彼を睨むがものともせずにそのまま部屋を出ようとする。

「君の世話は……私の子どもたちが適任だろう。うん、きっとそれがいいに違いない。
あと私の名前はおっさんではなく、クロード・ジャクソン。クロード先生とでも呼びたまえ。
ちなみにまだ私は35のおにーさんだ。断じておっさんという年ではない」

その言葉とともに部屋を去られる。部屋に残るは縛られたままの■■のみ。

「………いや、35で子持ちやったらおっさんやろ。
てか、解いて俺を帰らせろやぁーー!!」



こうして■■は彼らと出会った。この予期せぬ出会いは彼に何をもたらしたのか。
それはまた次の機会に話すとしよう。





レモンゼラニウム
花言葉『予期せぬ出会い』

このページへのコメント

 良い巡り合いが有ったようですね。
願わくば、終わりを良しと出来る程の日々である事を。

0
Posted by クロマツ 2016年12月28日(水) 22:47:28 返信

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