此処は深き深き海が底、光無き闇の世界である。
とある海域の奥底に鎮座する沈没船の中では異形共が神に罵声を浴びせながら会議をしていた
ファック! シット! アバズレゴッデス! 何たる野蛮なことか、これには海洋の詩人サザエ=サンシャインも顔を顰める。
「ボス! ついに海の女神のビッチが我らから死神の権利をはく奪した!」
「あのアバズレ! 人間などとの恋だの……愛だと……ッ! 糞がッ!」
「アバーッ!」
沈没船の玉座に居座るオルカ=トラジエントの尾鰭が暴れる、ヤツアタリだ。
アワレにも近くにいたシタッパ=イワシはネギトロめいた肉塊となる、コワイ!
ボスの癇癪をとっさに避けた幹部たちも手当たり次第にモノに当たる、
運悪いシタッパ=イワシ=サンたちが物言わぬネギトロになるが幾千億もいるので実際大丈夫。
「だがボス、これから先我らアビス=シンジゲートはどうする?」
「深海は今後あの元人間のデイヴィーのタコが我が物顔で闊歩するに違いない」
「我らはあのタコに恭順するのか? あのたかが女神に好かれただけの人間の小童にか!?」
デイヴィーのタコ、経緯は省くが海の女神と一発やって逆タマノコシとなった人間である。
このタコは今後の出番はないと思うが最後は心臓を貫かれた死んだ。
「それよりもだ、海神からの役目をはく奪された我々が今更浅瀬に戻ることも考えねばならまい」
「今の海王がそれを許すか? あのいけ好かないジャスティスヤロウが我らアビス=シンジゲートの存在を許すとはあるまい」
「ならば我々にはもう海のモズクとなって他の贄となる未来しかないというのか!」
「……それが我ら異形の者の末路だ、世俗、道理。普遍から外れた我らは世界のはみ出し者にすぎぬ」
「ファックゴッデス! エイズになって腐れ死ね!」
幹部たちが次々と界王や女神への罵倒と自分たちの未来を嘆く。
何たることか、これではまるでリストラされた中年リーマンの嘆きのような雰囲気が船の中を覆う。
その様子にオルカ=トラジエントは返答した。
カチッ! 
「「「アバーッ!」」」
独特のクリック音が鳴り響くと同時に幹部全員が吹き飛んだ!
これぞオルカ=トラジエントの固有カラテ、クリック=オンパ=ジツの一つである。
圧縮した音の衝撃は全てを吹き飛ばす、それは幹部という地位にいる異形共も例外ではない。
「うろたえるなカス共! アビス=シンジゲートはそんなことで滅ばない!」
カッと吠えるオルカ=トラジエント、すると怒りにより周囲の水圧が十倍に膨れ上がる。
吹き飛ばされた幹部たちも立ち直ると、巻き込まれたシタッパ=イワシ=サンが潰れてネギトロとなる。
ネギトロになった仲間を吹き飛ばしオルカ=トラジエントは吠える

「これより我らアビス=シンジゲートはバミューダ=ラビリンスに潜行する!」

「「「「……アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」」」」

幹部の絶叫、オルカ=トラジエントのシャウトは沈没船を揺らした。
一方具足武者はネギトロになった仲間を処理していた、ソシャク!


◇◇◇

バミューダ=ラビリンス。
通称海の終わりである。
特定の海域で終焉の儀式を執り行うことでその扉が開かれるとされている。
稀に扉がランダムに開くとされているが、それは悲劇の運命となるので海の誰もが恐怖する。
この海に底はない、この海に空はない、この海に陸はない。
あるのは混沌と生命の濁流である。
此処で生き続けることが出来るのならば、それはもはや強者の称号と変わりない。

◇◇◇


「アイエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
シタッパ=イワシ=サンが断末魔のシャウトを上げる。発狂死だ。
物言わぬネギトロとなった死体を具足武者は一息で喰らう、つまみ食いだ。
具足武者がいるのは暗き暗き海が底、ではない。
海の終わりと称されるバミューダ=ラビリンスに浮かぶ船の上である。
海面には謎のモズク生命体が浮かび、空には鉛色のスパイダーデーモンがわんさかと飛んでいる。
昼夜を問わず雨のごとき雷が降り注ぎ、流星群もスナック感覚で降り注ぐ。
まさしく地獄めいたビューだ、現実を理解できない哀れなニュービーの頭は爆発四散!
「上からくるぞ! 叩き落せ!」
常に上空から襲い掛かるスパイダーデーモン、超弩級の蜘蛛であり羽がないのに空を飛ぶ化け物だ。
だがそれだけだ、襲い掛かるスパイダーデーモンの足を水流でもぎ取り、頭部を八分割する。
残骸となったサシミの肉塊に群がるのはシタッパ=イワシ=サン、数秒のうちに喰い終える。
増殖するシタッパ=イワシ=サンをつまみ食いしながら、具足武者は遠くを見る。
GOOOOOOOOOOZIRAAAAAAAAAAAAAA!!!!
見よ、はるか遠くにて海を歩くはゴツゴツした黒の王、あふれだすパープルはニュークリアの香りがする。
その眼は白く濁っており明らかに常軌を逸している。ジッサイスゴイコワイ!
それが五十、百と増殖する。どれも巨大であり偉大だ。
それに対抗するかのように右の海面がめくれ上がる。
あれはなんだ、巨大な牙だ、アゴだ、頭蓋だ。
RAVIIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
ラヴィ=エンテ=サンだ! 島一つを喰い散らかすといわれる暴力の化身のエントリーだ!!
しかも一匹二匹の話ではない、数百の群れだ! 群体としてのエントリーだ!!
分裂する黒の王とラヴィ=エンテ=サンズの大規模イクサ! 衝突の余波でシタッパ=イワシ=サンが吹き飛び爆ぜる。
「レレレレレ……」
恐怖に怯えるのは具足武者の船の思念体レ=Q=サン。
海に沈んだ船をオルカ=トラジエントがサルベージ&チェーンナップして作ったアビス=シンジゲートのアッシー=サンである。
バミューダ=ラビリンスを航海するために急増した船であるが、その性能は実際強い。
ただしまともな海戦という条件が付く。決して大怪獣バトルに割り込めるほどのパワーはない。
激突の余波に耐えれるだけシタッパ=イワシ=サンより耐久性能は優れているが、
そのメンタルは生まれたばかりのベイビーだ、発狂死できないのがツライシンドイ!
レ=Q=サンが恐怖に怯えている時、別の船にいるオルカ=トラジエントより連絡が入る。
『ザザーッ! 聞こえるか愚者……』
「ボス!」
『行け』
「ショウチ!」
オルカ=トラジエントからの命令を受け、具足武者は船に迷いなく命令を出した。突貫である。
その要請に白目をむきながら答えるレ=Q=サン、その眼は洪水であった。
全速力で戦場へと横殴りに向かう船を上空から俯瞰しつつ、オルカ=トラジエント=サンは命令を出す。
『ザザーッ! 死失くして生はなし! 危機失くして進化なし! アビス=シンジゲートに明日はない!!
 ならば我らはここで死ぬか! 餌となり海の藻屑になるか!! 否!! 断じて違う!!
 我らは生きる! 決して誰の餌にならない!! 我らが捕食者だ! 頂点だ!! DERAAAAAAAAAA!!』
オルカ=トラジエントのシャウトはアビス=シンジゲートに響く。
吠える先にいるのは奇奇怪怪の異形共、空を飛ぶスパゲッティ、降り注ぐゲッター線、分からぬ問いを続ける化身。
どれもこれも強い、強い、強い。
だが我らに退路はない、道は自分で切り開く。
たとえ幾千幾億の仲間の屍の上に立とうと、それは敗北にあらず。
群れが生き残れば、オルカ=トラジエントが生き残れば勝利だ。
アビス=シンジゲートに恐れはない、生きるということは死ぬということなのだから。
だが彼らが死ぬのはバミューダ=ラビリンスでもないし、この時間ではない。
何時か来る終わりまで、彼らは喰らい生き続ける。

このページへのコメント

 困難なれど、其れが生きるためならば選ぶ。
ええ、快き意思です。

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Posted by クロマツ 2016年12月28日(水) 22:51:03 返信

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