暗き暗き海が底、つまるところ深海である。
太陽の光が届かぬ真っ黒な闇の中、生命の息吹は確かに存在している。
それはまさしく魑魅魍魎奇妙奇天烈百鬼夜行、地上の理から外れる異形共の楽園である。
「コボポー……コボー」
奇妙なシャウトを吐き出しながら深海を漂うのは具足武者、タガの外れたグソクムシである。
その脇には乱雑に食い散らかされたダイオウイカの破片が漂っている、具足武者は満腹であった。
小さき異形共がその破片を巡って小競り合いをしており、その様子を観測しながら具足武者は深海を漂っている。
だがその時深海の闇をかき分け、チミドロカラーの砲弾が!
「イヤーッ!」
独特のシャウトを発しながら迫りくる砲弾は具足武者へと襲い掛かる。
「グワーッ!」
着弾、チミドロカラーの砲弾は具足武者の腹部に深々と突き刺さり、スカイブルーの臓物が零れ落ちる。
具足武者はダンマツマの響きを高鳴らせ、深海の闇の中を切り裂く流星の如く吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる中具足武者はとっさに水流を操作し、海底の固いガンバンにめり込まされるのを避けた。
ギュルルルルと水の逆撒く音が深海に響き渡る。
殴られた勢いと水流操作を応用し、具足武者はアクア・ジェットを繰り出す。
これを見たチミドロカラーの砲弾は再び腕を構える、それは地上のボクシングの構えにひどく似ていた。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
両者のシャウトが高鳴り、鈍い激突音が鳴り響く。
「グワーッ!」
吹き飛ばされたのは具足武者、ボロボロの腹部に飛び切りのアッパーが突き刺さった。
完全に粉砕された腹部から奇妙な汁をこぼしながらすさまじい勢いで浮上していく具足武者を尻目にチミドロカラーは合掌しこう呟いた。
「ドーモ=グソクムシャ=サン。パワフル=シャコ=デス。カラテガタリナイ!」
「アバーッ!」
返答はダンマツマのシャウトだった。

◇◇◇
「ヒドイ! ワレハラアナアイタ! パワフル=シャコ=サンヒドイ!」
「アンブッシュに対応できないグソクムシャ=サンが悪い、鈍り過ぎだ」
怒りをあらわにする具足武者に対してチミドロカラーの生物、剛腕蝦蛄は軽く受け流す。
自らの臓物が零れ落ちるのをアクアカラテで何とかしつつ、具足武者は剛腕蝦蛄に尋ねた。
「パワフル=シャコ=サン、ワレナニカヨウ? ワレナニカアルカ?」
「お前……今日がオルカ=トラジエント=サンと会う日だというのを忘れたな?」
「……アッハイ」
「今日のオヤツはオヌシのイケヅクリだな、ヤッタネ!」
「アバーッ!」
悲鳴にも似たシャウトを響かせながら具足武者は海流を操作し死に物狂いで遊泳する。
それを追うように剛腕蝦蛄もパンチの反動で吹き飛びながら深海を駆け巡っていく。
数時間後、具足武者と剛腕蝦蛄は深き深き海の底、のさらに深き穴。
誰が読んだかアビスホール。深淵の穴の前にたどり着く。
オルカ=トラジエントはこの穴の奥底にひっそりと存在する船の残骸を根城としている。
その船は誰が作ったのか、それを知っているのはオルカ=トラジエントだけである。
知識欲がない具足武者にはどうでもいいことであった、重要なのはオルカ=トラジエントを怒らせたかどうかである。
若干の恐怖を抱えつつ具足武者はアビスホールへと飛び込んだ。

◇◇◇

「愚者……約束は覚えることだ。教えたよな、オレは……」
「アッハイ」
「お前がバカなのはいい、もう諦めた。……だがオレは待たされるのは嫌いなんだよ……知っているよな……愚者」
「アッハイ」
「じゃあ何をすべきか分かるよな……オレは教えたはずだぞ……愚者」
「ア……アバーッ!」
「やかましい」
ベギ
オルカ=トラジエントの偉大なる尾鰭が具足武者を叩き潰す。
固いガンバンと圧倒的質量に押しつぶされた甲殻がベキベキと嫌なシャウトを響かせる。
すると見かねた剛腕蝦蛄が殺されてはまずいとオルカ=トラジエントに声をかける
「ボス……ケジメは既に行われた、それにこいつにはまだやるべきことがある、でしょう?」
「DERAA……不味い足だ」
ペッとオルカ=トラジエントが吐き出したのは具足武者の両腕である爪の欠片だった。
遅れたケジメを付けるために両腕を差し出した具足武者は潰されてもう瀕死状態である。
ピコンピコンと深紅のゲージの音が聞こえそうなほど衰弱した具足武者にオルカ=トラジエントは告げた
「グソクムシャ=サン、アビス=シンジゲートからの通達だ、今から貴様には地上に行ってもらう」
「今地上では神々と人類の戦争が行われている、我ら古より存在するアビス=シンジゲートにも招集がかかった」
「今すぐに地上に適応できるのはお前だけだ、イチバンヤリのホマレだありがたく受け取れ」
「ア……アバァー」
「我らも適応の準備が出来次第、援軍として地上に浮上する、それまではオヌシ一人で戦っていろ」
「地上には水神であるアクア=ゴッデスが擁する叛逆軍がいる、これがそこまでへのルートだ」
カチッ!
オルカ=トラジエントがソニック=カラテで海流を作る、神賽島へ直通の海流だ。
「安心しろグソクムシャ=サン、とりあえず先立つものとしてアビス=シンジゲートの財貨を少し持たせておく」
「返事はどうした……愚者」
「アッハイ」
「さっさと行け」
剛腕蝦蛄が具足武者に財貨の入った宝箱を括り付けると、
オルカ=トラジエントは大いなる尾鰭を振るい具足武者を吹き飛ばす。
「アバーッ!」
かくして深海からの来訪者はこうして島に流れ着いた。
オワリ












◇◇◇

「ボス、ところで今回のイクサ、どっちに着くんだ?」
「勝つ方だ」
「アイツの着いた方が勝つとでも?」
「パワフル=シャコ、古来より伝わる言葉だ、一発だけなら誤射かもしれない」
「鉄砲玉送り込んでその言い草ですか……グソクムシャ=サンアイツ今度こそオダブツなのでは?」
「そういってアイツが死ぬことはなかった、今回も同じことよ」
「おおアクアよ仕事しているのですか」

◇◇◇

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