むかしむかし、あるところに子狐がいました。
子狐はなにもしりませんでした。なぜなら子狐はおさなかったからです。
ははおやからおそわったことだけが子狐のすべてでした。
ははおやといっしょにいることが子狐のしあわせでした。

けれども、あるときははおやはいなくなってしまいました。

子狐はげんいんとなったひとびとをみて、ふのかんじょうをおぼえました。
子狐はひとびとをうらみました。つよくうらみました。
おぼえたてのかんじょうをばくはつさせたのです。
うらみは子狐をあっこへとかえかけました。
しかし、あるおとこのてによってそれはふさがれました。
うらみはひとつのいしへとかわり、こぎつねはあっこにはかわりませんでした。

そのご、ひとをきらった子狐はもりのおくふかくにすむようになりました。
それからしばらくのあいだ、子狐はひとりぼっちですごしました。



昔々、ある所に狐が居ました。
狐は人が嫌いでした。何故なら狐の親は人に殺されたからです。
人と関わらないようにするのが狐の日常でした。
狐に幸せなんて感じることはありませんでした。

けれども、ある時狐はとある姫とその配下の男に会いました。

狐は姫と関わる内に友情を覚えました。
狐は姫と仲良くなり、強くなりたいと望む男を弟子としました。
その日々は騒がしくも楽しいといえる日々でした。
その日々は狐を幸せと感じさせました。
しかし、またしてもそれは人の手によって壊されました。
狐は再び人を強く恨みましたが、狐は悪狐へと変わることはありませんでした。

その後、狐は男の手によって首輪がかけられ、人々によって里の森の奥に住むようになりました。
それからまた暫くの間、狐は独りぼっちで過ごしました。





昔々、ある所に陰陽師の男が居ました。
男は都一番の陰陽師でしたが、人付き合いが苦手でした。
男はそれを悩ましく思っていましたが、どうにも改善することはできませんでした。
改善しようにも相談する相手も居なかったからです。
男は悩ましく思いながらも、日常を過ごしていました。

ある日、男は宮中の美女の正体が妖狐だと気付きました。
しかし、妖狐は悪さをするわけでもなく、上皇に尽くしていました。
男は妖狐と話し、妖狐の正体を黙っている事を約束しました。

しかし、ある頃から上皇は体調を崩し、病に伏せるようになりました。
妖狐も男も必死に尽くしましたが、上皇の体調は回復しませんでした。
…そうしている内に妖狐も疲労していたのでしょう。
他の陰陽師が妖狐の正体に気づき、それを告発したのです。
男は必死に抗議しましたが、誰も男の言うことには耳を貸さず、
人々は上皇の体調が悪いのは妖狐の仕業だと決めつけていました。
むしろ、男は妖狐の術に嵌っているのではないかと思われ、現在の地位を追われました。
そうしている内に討伐軍は結成されてしまいました。男は何もできませんでした。
戦いが始まる前に、男は妖狐の元へ何かできることはないか聞きに行きました。
妖狐はただ、子供を頼むだけでした。

そうして、戦いが始まり―――妖狐は討たれ、戦いが終わりました。
しかし、全ては終わっていませんでした。
子狐は憎しみを抑えきれず、悪狐へと変わりかけていたのです。
男は妖狐との約束を守るため、男としての力の全てを使い、それを防ぎました。
憎しみは後に殺生石と呼ばれる石へと変わり、男は力を失いました。
男は子狐に何かできることは無いか悩みましたが、子狐は人が嫌いになっていました。
力も地位も失った男は、人が寄り付かない森を紹介することしか出来ませんでした。
それから、男が子狐に出来ることは無く、ただ森を眺めるだけでした。

晩年、男は思いました。
次があるならば…次はもっと人と、人以外と仲良くなれるような人になりたい、と。
そんなことを考えて、男は息を引き取りました。

それから、暫くの時が過ぎていきました。



昔々、ある所に男が居ました。
男は人付き合いが得意でした。人と仲良く話すことのできる人でした。
そんな男はとある姫の下に付くこととなり、護衛の任を受けました。
男は特別な力は全く持っていませんでしたが、そこそこの実力を持っていました。
男は護衛の任をこなしながら、日常を過ごしていました。

ある日、男と姫は森の中で妖狐と出会いました。
男が妖狐と出会ったのはこれが初めてでしたが…不思議と、懐かしく思いました。
男は妖狐と話し、力不足だった自分を鍛えてもらえるように弟子にしてもらいました。

男はそれから色々なことを教わりました。
最初こそ乗り気でなかった妖狐も、次第に多くの事を教えるようになりました。
術を習得することはできませんでしたが、体術や森の知識などを身に着けることが出来ました。
妖狐からたくさんの事を学び、妖狐と触れ合ううちに男は妖狐の事が好きになっていました。
今までこれほど好きだという気持ちを持ったことのなかった男は悩みました。
悩み、気持ちを打ち明けることが出来ませんでした。

そんな日常は、ある時簡単に砕かれました。
戦が起こり、巻き込まれ―――男は姫を守ることが出来ませんでした。
それだけでなく、男は妖狐の心を守ることも出来ませんでした。
男が出来たのは身勝手に妖狐を生かすことだけでした。
男はそれが間違っているのだろうとわかっていました。
わかっていて、自分のエゴで妖狐を生かそうとしました。
自分の気持ちを、心を、魂を首輪に込めて、妖狐を縛りました。
男は妖狐の為に長く、いつまでも続くような場所を作ろうとしました。
その為に魂を燃やし、一人戦い続けました。

晩年、男は何故そこまでしていたのかが分からないほどに燃え尽きていました。
けれども、最後に妖狐を見た時に全てを思い出して、男は思いました。
また次があるなら…次こそは、妖狐と寄り添って生きていきたい、と。
そんなことを考えて、男は息を引き取りました。

それから、また暫くの時が過ぎていきました。





ある所に独りぼっちの妖狐が居ました。
あるところにこころのかけた子供がいました。

妖狐はある日、森の奥で子供と会いました。
子供はあるひ、もりのおくでようことあいました。

妖狐は何故だか、とても懐かしく思いました。
子供はなぜだか、とてもなつかしくおもいました。

しかし妖狐はどうでもよいか、とあまり気に留めませんでした。
しかし子供はどうしてそうおもったのかおもいだせませんでした。

妖狐は久しぶりに人と触れましたが、また失うのだと全てを諦めていました。
子供はそのすがたをみて、それをかえたいとおもいました。

子供とふれあい、不思議と妖狐は孤独を感じていないことに気付きました。
ようことふれあい、ふしぎと子供はじぶんがこころをかんじていることにきづきました。

それまで妖狐はずっと孤独を感じていました。
それまで子供はこころというものがあまりありませんでした。

妖狐はこの場所に追い込まれてからずっと孤独の中で生きていました。
子供はそれをきき、こころにきめ…ようことやくそくをしました。


「ボクがいつかここから連れ出してみせるよ」と。





―――これは大昔から続く…人間に振り回された妖狐と、欠けている男の物語。

おとぎ話でもなく、童話でもなく、空想の話でもなく…今も続く、二人の物語。

ここから先は…また、別の機会に語るとしよう。

このページへのコメント

 さて、どう転ぶかは未だ分からず。
然し、他の何かを大切に思えたのならば、
その思いを抱けた事だけは幸いなのでしょうね。

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Posted by クロマツ 2016年12月28日(水) 23:03:28 返信

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