『こっから先はR指定よー!だけど今回は特別サービス!年齢なんてお構いなしに見ていきなーっ!』
極彩色の光源が目まぐるしく切り替わり、絶えず踊り子たちを照らし出す舞台の上。
蠱惑的な衣装を身に付けた褐色の女性がマイクを片手に宣言する。
瞬間的に湧き上がる会場、男たちの雄叫びにも似た歓声。
『はっはー!正直だなスキモノどもっ!でもおねーさんそういう人たち大好き!』
『そんじゃ遠慮なくガン見してきなーっ!』
マイクのスイッチを切って後ろへ放り投げるのと同時、衣服を引き剥がすように脱ぎ捨てれば、局所だけを隠すような際どい衣装があらわになる。
普段の営業では絶対に身に着けることの無いような物だ。というか娼館じゃあるまいしお断りだこんなのってレベル。
けど、今日だけは違う。今日だけは特別。
殆ど裸同然の状態で、腰を突き出したり脚を広げたり、扇情的に柱に身を絡めたり。
そんな風に踊り、艶っぽい唄で眼と耳を楽しませて。
決死の覚悟を決めた戦士たちを見送るのだ。



「お疲れ様ー」
仕事を終えて楽屋で一息。同じ踊り子仲間から声をかけられる。
「お疲れー。しかしまあ、やりきれないわ」
今日の公演は、これから神々と最前線で戦う戦士団の為に貸し切りで行われた物。
要するに、これから死ぬ者たちへの手向けであり、せめて死ぬ前にいい思いをしてね、という事だ。
あの後、昂ぶりを抑えられない戦士団は座長の手引でこの街にある、最高峰クラスの娼館へ向かっていったが。
「世の中が末期的だから仕方ないのだろうけど、私はもっと前向きに歌って踊って〜ってしたいなァ」
先ほどとはまるで違う服装――――タートルネックのセーターとカットジーンズ――――に着替えた私の口は、ついつい不満を漏らしていた。
この所、座長が持ってくる仕事の殆どが訳あり……いわば決死隊への最後の手向け、といった感じの物ばかりなのだ。
確かに金払いは良いし、給金にもそれなりの特別手当が付くが、どうにも喜べない。
「あー、まあアンタはそういう性分だっけね……」
もう一人の同僚――――私も含め、皆が姉と慕う狼の獣人――――が苦笑しながら頬を掻く。こういう仕事をしている以上は割りきらなくてはいけないと、理解はしているのだけど。
「……なんかもうねえ。私よりも年下の子とか混じってるの見ちゃうとさぁ……」
机に突っ伏す。なんで君その年齢で覚悟決めた目をしてるのかな、とかそんな風に思ってしまう。
いや、きっと守りたいものや命を賭してでも残したいものがあったのだろう。そうでなければあんな目は出来ない。
だからこそ、痛ましい。こっちが口を出したり挟んだりすることではないのだけど。
やっぱりちょっと、耐えきれそうにない。
「あー、だったらさ」
そう言って姉さんが胸から何やらチラシを取り出す。本当にそれ好きですね。
受け取った紙に書いてあったのは、方舟への乗船者を募集中、という内容に場所を示した地図。
「これ、場違いじゃない?」
なんとなく、の先入観ではあるが、こういうのはこう各分野で優秀な人材ばかりを集めて残す、というようなイメージが付いている。
大衆向け娯楽作品の読みすぎ、見過ぎだとは思うのだが。
「そうでもないわよ?船内に色々な施設があるし、その中には酒場もあって……ほら、船員も募集してる」
指し示された箇所には、確かに各船内施設での労働者も募集中、と書いてあった。
それなら……いけるのかな?
「方舟っても悲観的な連中ばかりじゃないでしょうし、今のココよりは向いてるんじゃない?」
「……かもね。ああ、でもそうなると此処を離れないといけないのか」
戻ってこれる保証も、明日も此処が続いているという保証だってないけど、離れることにはやっぱり少しの抵抗がある。
「まー、私もベルが居なくなるのは寂しいけどさ」
そう言って姉さんが私の頭に手を置く。諭すように、あやすように頭を撫でながら。
「そろそろ1人で飛んでいってもいい時期だ、って事なんだよ」
「……そうなのかな」
「ええ、そうですとも。大丈夫、向こうでもきっと上手くやれる」
そうして私を後ろから、優しく抱きしめてくれる。
「ん……ありがとう。そうだね、私、方舟に行ってみる」
「よし、それなら近いうちに全員で送別会だね!」
姉さんが笑って頬を寄せてくる。くすぐったさと温もりを感じて、自然と口元が綻んでしまう。
「全員で?ちょっと大袈裟じゃないの?」
「妹分を送り出すんだよ?ぱーっとやんなきゃダメでしょ!」



数日後、一座の皆と楽しく過ごした私は、方舟の前に立っていた。
「……これ、大丈夫なのかな」
若干どころか結構不安を覚える外観だけど、重要なのは中身、そう、中身。と自分を奮い立たせて、船へ乗り込む。
さて、一体何処へ流れ着くのだろうかと、胸の内に期待と不安を満たしながら。
「ま、なんとでもなるでしょ」
根拠はないけど、前向きな気持ちで。

このページへのコメント

作成お疲れ様でした!
少しでも応援するために、しっかりと前を向いてがんばってほしいですね……

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Posted by ゾディー 2016年09月13日(火) 18:14:11 返信

タートルネックとカットジーンズ・・・良いですね!
もとい終末のシリアスさからのアヒル方舟オチ、良かったです。

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Posted by クロマツ 2016年09月13日(火) 16:48:16 返信

まあ、こんな世界、前向きに生きてけるやつの勝ちだわな。

作成お疲れ様でした。

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Posted by 安藤竜 2016年09月13日(火) 16:21:16 返信

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