血と焼けた人肉の臭いが漂い、人間だったモノの成れの果てが散乱する地獄…
神の放った軍勢との戦いに敗れ、全てが台無しになって終焉を迎える私の家(国)

「獣達が近づいてる……もう、終わりにしよう…■■■■」

―――ええ、そうしましょう…兄さん

父は戦火に消え去り、母は毒を呷って自害をし、姉は目の前で獣達に食い殺された…
この国に残った人間はもう私と兄さん…唯二人。もう、とっくに私達の心は折れてしまっている

「ごめんね…僕に付きあわせて。……■■■■は僕を恨んでもいいんだ」

―――ううん、違うは兄さん。…これは、私の望みでもあるの

「望みかい…?」

―――ええ、望みなの。……最後に愛する人と死ねるという望み。

そういって、私は泣いている兄さんに笑いかけました
いまから、貴方のやることに間違いはありません。だから、お願いします…という気持ちを込めて

「そうか、ああ…本当に君は優しい娘だ。…僕の自慢の妹だよ」

―――私は今まで、兄さんが誇れる妹として生きてきただけです

涙に濡れた顔で微笑みながら、私を撫でる兄さんに私はそう答えました
そうして、全ての覚悟を決めた私はゆっくりと目を閉じて兄さんに告げます

―――だから、最後まで私は兄さんが誇れる妹として人生を全うしたいの…兄さんお願い

「ああ、覚悟は決まってる。僕は君を殺そう…だけど、心配しないで■■■■。僕もすぐに追いつくから」

―――うん、愛してるは兄さん…貴方に殺されて私は幸せです

「…僕も大好きだよ■■■■」


走馬灯の様に思い出す日々…幼少期の家族との思い出、
軍に入隊して苦楽を共にした仲間との苦い記憶
それら、全てを思い出しながら……私は…死ん





―――ザシュッ…………カラン、カラン

「な…んで……?」

ではいなかった…私は生きていた……不可解な音と声と共に

―――えっ…?

その声と音に反応した私は目を見開きました……そこには…手から剣を零れ落とし、口から血を流す兄さんと
………その兄さんの心臓を一突きしていた…私の『右腕』でした

―――な…によ……これ…?

突きつけた『右腕』を兄さんから引き抜いて、倒れ伏して死んだ兄さんを眺めながら…
私には理解が出来ない……でも…

―――死…な、なきゃ……死な…なきゃ…死ななきゃ…

どうしていいかわからない私でしたが…兄さんを殺してしまった事実の罪悪感と不快感から
私はすぐさま床に落ちている剣を左手に握り、首を一閃させようとして……

―――きゃっ…!な、なんで…なんで……私の右腕が勝手に…!?

私の『右腕』が私の意志に反して、剣を持つ左手を強く握りしめ死ぬことを妨害したのです

―――なによこれ…なんで、私を殺させてくれないの…?なんで……なんで…なんでなんでなんで!なんで…私を死なせてくれないの■■■!









それ以降の記憶は私には朧気にしか覚えていません…ただ、記憶にあるのは私は死ねなかったことだけです
そうして、気づいた時には私は大陸を横断する列車に『方舟』の案内が書かれた紙を『右手』に握って乗っていたのでした
まるで、私を絶対に死なせはしないように……


あの日、私の■■■は死にました……代わりに新しい■■■を手に入れました

このページへのコメント

作成お疲れ様でした!
死にたいと思い、生きて欲しいと思ったからこそ、そのつらさは……

0
Posted by ゾディー 2016年09月13日(火) 20:54:36 返信

死ねないってどうしようもなく辛いよな
それが善意からくるものと悪意からくるものとではどっちがより辛いんだろうか…

お疲れ様です

0
Posted by 片羽 2016年09月13日(火) 20:21:54 返信

兄妹で、殺し合い・・・、か。
兄妹なんていねぇが、いい気分じゃねぇな。

作成お疲れ様でした。

0
Posted by 安藤竜 2016年09月13日(火) 20:17:14 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます