【R-18】シュテルとシュルクは遭難した島で貴方たちと生活するようです【安価・あんこ】 - 炎の運命
―――――燃える、燃える、燃える

全てが燃える、景色が燃える、夢が、希望が、未来が燃える

燃える、燃える、燃える――――


『俺』は夢を見た、懐かしい、硝煙と炎が燻るあの記憶の夢を

嘗て、街から離れた郊外の孤児院で働いていた、あの頃を




「すみません、何時も分けてもらって…本当に助かります。」

「いいんだよ、今日は元気の良いおちびちゃん達はどうしたんだい?」

「あぁ、今はお昼寝の時間なので…」

「そうかい、また来るんだよ?お菓子を用意して待ってるからねぇ」


ご年配の老夫婦に頭を下げて礼を述べ八百屋から出ると、強さ増した照りつける日差しが目を襲う。額から滲み出る汗を手の甲で拭い
野菜を入れた袋を左右両方の手に持ち帰宅の途を進む。その先に待ち受けるのが地獄とは知らずに…あの時、走り出していれば間に合ったのだろうか。
普段の通い慣れた山道を進み、やがて開けた道路へとたどり着く、その曲がり角を曲がれば何時もの孤児院がある筈だ…在るべきなのだ。
だが、現実は無情にもソレを打ち砕く。


燃えていた


子供たちと、先生たちと一緒に作った菜園が

今年の春に、三匹の子供が生まれた犬小屋が

そして、孤児院が

全てが


燃えていた



「あ…あ…くっ…誰か!誰かいないのか!」


両手の袋を捨て、無我夢中で駆け出した。燃える孤児院にたどり着き、大きな声を上げる。自分でもこんな大きな声が出せたのかと驚く程に声を張り上げたが、
返事は返って来なかった。だが、燃える孤児院の中にソイツは居た。

『巨獣』

そう呼ぶべき巨大な魔獣が居た、そして気付いてしまった。ソイツの口元にある肉片を…

「ウオオオォォォォォォッッ!!」


目の前が怒りで真っ赤に染まり、そして、其処で記憶は途絶えた。

気が付くと、街の病院の病室だった。後に、医者に話を聞くとどうやら旅人が偶然にも燃える孤児院に気づき街に知らせたらしい。
焼け落ちた孤児院の中に居たのが、死んでいた巨獣と半死半生の俺だったと言うのだ。
巨獣は街の警邏に引き取られ、死亡解剖を受けた。検死官が言うにはその胃の中には喰いちぎられ、溶けかかった人間や動物が居たと聞いた。
…恐らく、孤児院の人達だろう。残された遺留物は埋葬してもらう様に頼んだ。…引き取る人間も既に居ないだろうから。

やがて、傷が癒えると荷物をまとめ病院を出た。行く先は…『ノアの方舟』そう呼ばれる船に。


「それでは乗船手続きを行いますね…名前、お伺いしてもよろしいですか?」

「『俺』…いや、すいません。『私』は『ゴロー』だよー、よろしくねー」

やがて、目が覚める、身体に嫌な汗が滲む。振り払うように頭を振った。
身体に残る傷痕が『俺』を苛む、あの時、救えなかった『俺』を怨むように
だから、この身体に『笑顔』という仮面を被り、隠そう
何時か、悪夢が無くなる、その日まで…


食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の舟。あらゆる不条理が武装する、最果ての舟。ここは創造神の掌の中。ゴローの体に染みついた硝煙の臭いに引かれて危険な奴らが集まってくる。
次回、『出会い』。ゴローが飲む、箱舟のコーヒーは苦い。